第67話 昼食と話し合い
入った食事処は堺警部行きつけの店だ。食券を買って店員に渡すようなシステムでだ。昼時を少し過ぎていたからか店内には数人のサラリーマンがいるだけだ。僕はカレーを注文した。大きな皿に盛られたカレーを見るにこの店の並盛はかなり多いようだ。値段もそう高くないことも考えるとかなりコスパが良い。
僕は他の客から離れた4人席についた。
全員が揃うと普段より声量を絞って話を始める。
「まあ食いながら進めよう。とりあえずこのメモを」
六郎木探偵のメモをまだ見ていない堺警部と矢田丘警部補の前に置く。隣に座る坂下警部補はスマートフォンの地図アプリで住所の場所を検索して航空写真にして全員に見えるようテーブル中央に置く。
大きな敷地にコンクリート製の高層建造物が建っているのがわかる。少し黒ずんでいるようにも見えるが、過去に火事でも起きたのだろうか。
「ビル?いや、ホテルか何かの跡地か?ここで警視と赤宮が会う。我々は付近で悟られないように警戒しろと言う話ですか」
「そういうことになるかな」
僕はカレーを一掬いしながら答える。
「情報は確かなんですか?」
「月城警視の依頼で赤宮康介に関して独自に調査したと言っていた。その中で情報をつかんでいたとしても不思議じゃない」
「警視が探偵に依頼ですか。それじゃあ警視は赤宮の情報を持っているということになりますよね?なぜ話さないのでしょう?」
矢田丘警部補の質問に僕より早く堺警部が答える。
「矢田丘。それは警視なりの考えがあるからだ。4年前にも同じようなことがあっただろう?」
「ああ、4年前の事件の捜査していた時に情報を部下に全ての情報を与えないことで混乱を避けていたことがありましたね。そういえば」
僕の関わっていない事件ではあるが事件の概要は知っている。赤宮が事件を起こす前の事件で、確か個人医院の医者が5人の患者を薬物で殺害したという事件だった。犯人には怪しい噂があったと聞いている。かなり胸糞悪い話だというのは以前堺警部から聞いたが詳しい内容は話してくれなかったのを覚えている。
「まあ、根拠があるなら頼みを聞いて、周辺の警戒に当たる方向で話を進めることにしよう。いいかな?」
堺警部の問いかけに全員が顔を縦に振った。
「……しかし、悟られないよう秘密裏に動く必要があるというのが問題ですね。赤宮の捜査となればマスコミが動く可能性が高いです。となると、少数を複数のルートで現場に送り届けるとか交通のパトロールに同乗するなど、何らかの方法を取る必要があります」
問題はそれだ。荻原氏殺害事件以来、マスコミ関係の人間を警視庁付近でよく見るようになった。派手に動くとすぐにマスコミに察知されて、カメラを抱えたテレビクルーが一挙に押し寄せてくる。
「方法は幾らかあるさ。僕や堺警部はマスコミに顔を覚えられている。警視庁から出ていけば赤宮関連の捜査だと勘づかれるから、家から直接現場に向かえばいい。なに、大晦日で非番とすればいいだけだから話は簡単だ。あとは坂下君の案がいいかもしれないな。交通課に話はつけられる?」
「こちらでやりましょう。同期の奴がいるので話を通してみます。口の堅いやつですし、信用もできます」
「わかった。じゃあ矢田丘君に任せる。あとは建物全体をカバーするために必要な人員だが、敷地の広さを考えると最低でも20人は欲しい」
「優秀な奴らを集めないといけないな。その辺は黛警部と俺で決めよう」
「そうしよう。この警戒任務を部下に伝えるのは当日にする。どこかで漏らされると問題だ」
最後の一口を食べきり、僕はスプーンを皿の中に置いた。話しながら食べていた割には早めの完食だった。他の3人ももう食べ終わっている。
「……さて、飯も食い終わったし、話もある程度まとまった。戻って各々12月31日に向けて動こう」
「そうですね。頑張っていきましょう」
席を立って店を出た。
残された時間は約10日と数時間。すぐにその日はやってくる。
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