第66話 12月20日

 一週間ほど経ったものの、アジトから得られた資料からは赤宮本人の潜伏先に関しては全く分からなかった。月城警視は資料の確認を終えると、上から呼び出しを受けたり、自身に対する噂を流す先輩刑事に対処している。放っておいても悪影響があると判断して早急に対応することにしたようだ。

 僕はと言えば屋敷への事情聴取を続けたもののこれといった情報は出てきていない。それは他の支援者に対する事情聴取でも同じのようだ。


「何の情報も出てこない。もう聴取の必要はなさそうだ。新巻はもう何もかも吐き出したって感じだよ」


 聴取を終えた堺警部がぐったりとした表情で捜査本部に戻ってきた。


「屋敷も同じ感じですね。轟さんはまだ詰めてるみたいですけど」


「あの人は前時代的なところあるからな。あの人に聴取受ける奴には少し同情するよ」


 話していると坂下警部補と矢田丘警部補がやってきた。


「お疲れさん。そっちはどうだ?」


「何の進展もないですよ。支援者を一人見つけて幇助罪で捕まえましたけど、そいつからも赤宮に関する情報は出てきませんでした」


「赤宮は自分に繋がりそうな情報は他人に知られないようにしているからな。赤宮康介って名前も偽名だろう」


「日本の歴史上最悪の殺人鬼ってことくらいしかわかってないってのがな」


 赤宮逮捕の枷になっている部分の一つだ。犯人の素性がつかめていれば閥のアプローチも可能になるのだが、それができないというのが捜査を難航させている。

 月城警視は荻原邸の会話で何か気付いていた。六路木探偵に調査を依頼していたことを考えると僕たちには教えることができない理由があるのだろう。


「……あ、そうだ」


 偶然ではあるが丁度この4人の時間が開いている。今はそう忙しくもないから六路木探偵からの頼まれごとについて話す良い機会だ。


「どうかしたかい?黛警部」


「ああ、六路木探偵の話をするのに今なら丁度良いかと思ってな」


「そうですね。丁度4人時間開いてますから昼食ついでに話しましょう」


「しかし、ここに残るものはいた方がいいのではないですか?」


「もう昼時なんだ。轟さんもそろそろ休憩に戻ってくるだろう。あの人に任せれば問題ない」


 轟警部には申し訳ないが、重要な話になる。月城警視に聞かれないようにしなければならないからこれは致し方ないことなのだ。

 僕は部下に呼びかけて、何かあったら連絡をよこすように言うと僕は食事に出る前に轟警部のいる聴取室に向かう。

 聴取室横の部屋に入る。ここはマジックミラーが取り付けてあり、こちらからは聴取室内が見えるが、反対に聴取室からはこちらが見えないようになっているのだ。

 部屋の中では真っ赤な顔をした轟警部が支援者を問い詰めている。支援者はずいぶんと参っているようだ。これは少し休憩を取らせないとty党首を受けている側に限界が来てしまうだろう。

 聴取室の扉を叩き、轟警部を呼ぶ。中から少し待ってろ!と怒鳴り声が聞こえて大きな足音を響かせてドアに近づいてくる。


「なんだ黛!今聴取中だ。


「それはわかっています。轟警部、聴取を切り上げてください。頼みたいことがあります」


 不機嫌そうにしているが、一応話を聞く耳は立ててくれている。僕はすぐに本題を話す。


「1時間の間捜査本部で臨時指揮をとってください。月城警視は上層部と重要な話をしていますし、僕と堺、矢田丘、坂下4名も一時空けますので、お願いします」


「……わかった。んなら聴取切り上げる。それでいいんだな?」


「はい。お願いします。何かあったら連絡はください」


 轟警部は部屋に戻りながら片手をあげて了解という意思表示をする。

 話をつけた僕は3人と合流して食事処に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る