第65話 赤宮の資料
捜査本部に戻ってくると、月城警視と堺警部が書類を見ながら話をしている。
「お疲れ様です。只今聴取を終えて戻りました」
「ああ、黛君。屋敷の聴取でわかったことはありますか?」
「屋敷が赤宮に協力をしたのは18年前の八王子アパートでおきた女性の自殺です。詳しい事件内容は部下に調べさせています」
「そうですか。屋敷は赤宮に誰を殺すよう願ったのです?」
「中沢田晴彦。赤宮が9人目に殺した男です」
「あの男ですか。分かりました。……では、黛君、こちらを見てください」
月城警視から渡されたのは10枚程のコピー用紙であった。どうやら家の間取り図のようだ。どの図にも人の絵と赤い矢印がひかれている。
「どの間取りも見覚えがありますね。これって赤宮の殺害計画ですか?」
「そのようなものでしょう。かなりざっくりとしたものなので赤宮が計画を立てる時やそのシュミレーションをこうして図面に書いて行っていたのでしょう」
確かに図面によって幾つもラインが引かれているものもあれば、小さなアパートの一室であればとてもシンプルに一本ルートが書かれているだけだ。
「次にこれです。殺してから遺体を、彼に言わせれば芸術に変える過程を詳しく書いてあります」
厚手の紙に赤宮の直筆で書かれているようだ。
上部にはターゲットの名前が書かれている。絵はかなりリアルで、現場で見た遺体を鮮明に思い出せる程だ。
デザイン案は幾つもあり、ターゲットによっては10個ほど案があったようだ。どの案も狂気に染まっており、かなりグロテスクだ。
隣に立つ堺警部も顔をしかめて、口に手を当てている。
「よくもまあ、こんなに考えられるものですね。気分悪いですよ」
「そうだな。常軌を逸している。だからこそここまでの事件を起こせるのだろうがな。ウプッ、ああ、ちょっとこれ以上見たくないな。思い出してしまう」
「堺君の言う通り常軌を逸していますね。彼はこれだけ作戦を練り、綿密に殺害方法を考えられている。殺しのターゲットが未解決や表に出ていない事件の犯人。事件の被害者や関係者からしたら彼は救世主に見えたでしょう。それ故に赤宮に支援者として快く協力する。……指名手配されてから2年以上逃げながら殺しを続けられた理由がこの資料や支援者への聴取内容でよくわかります」
「……それで警察にも山中という内通者がいたんですからね。警察の動きをいち早く察知できる上、内通者が発覚すれば世間の警察への信用を落とせる。本当によく考えてる」
資料を見て僕の中でぼやけていた赤宮康介という男の輪郭が少し鮮明になったように感じた。
しかし、それと同時にこの短期間に赤宮を捕えることがどれだけ無謀かを思い知った。
資料を眺めながら沈黙していると月城警視が手をぱんと叩いた。
僕は少し驚いて顔を上げる。
「……疲れたでしょう。2人とも休憩してください。休憩が終わったら資料の調査をお願いします」
「あ、はい。分かりました。では、休憩に行きます」
敬礼をして捜査本部を出た。堺警部は深呼吸をして不快感を取り除こうとしているようだ。
僕は自販機に向かい、缶コーヒーを買って壁にもたれて一口飲む。
携帯を取り出して時刻を見ると22時を過ぎていた。休憩なしで早朝から仕事をしていれば疲れても当然だ。顔色を変えず仕事をこなしている警視が異常なだけだ。
携帯をポケットにしまい、顔を上げると堺警部が微糖の缶コーヒーを持って僕の向かいに立っていた。
「相変わらず微糖、美味しくないでしょう?」
「美味しくはないけど、甘いもの飲みたかったんで」
「ジュースにすればいいのに」
「カフェインとりたかったので。この自販機にエナドリがあればそれにした」
「ああ、そういう事。ところで坂下警部補から話は聞いてます?」
「聞いた。六路木探偵の話は信用して良いと思うよ。毒は散々吐くけど嘘を吐く人では無いそうだから。ま、詳しいことは落ち着いてからで」
堺警部はコーヒーを飲み干すと、トイレの方に歩いて行ってしまった。
僕もコーヒーを飲み干すと、ゴミ箱に缶を捨てて大きく伸びをした。
体からパキパキと音が響く。随分と凝り固まっているらしい。
眠気も疲れも取れていないが、今は無理矢理でも頑張っておかなければならない。時間は限られているのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます