第59話 六路木の頼み
六路木心護の話を聞く為、近くのカフェに入店した。
チェーン店で客が多いのは気になるが、疲れの溜まっている今、そう遠くまで行く気はない。
注文したコーヒーを受け取って店奥の角の席についた。
向かい合って座っている六路木心護という探偵の名前は聞いたことがある。後輩の小園偵士が随分と世話になっているようだ。
事件によく巻き込まれているようで、六路木探偵が解決に導いた事件も数多いと言う。
「話を始める前に一つ聞かせてください。六路木さんと警視はどのようなご関係で?」
「月城才児は同校出身の先輩ってだけさ。接点はそんなもので特別付き合いがあったわけじゃない」
六路木探偵はコーヒーを一口飲んで息を吐く。
「まあそんなことはどうでも良い事だ。それよりも本題について手短に話したい。あんたも疲れてるから話が早く終わることに異論はないだろう?」
「ええまあ、そうですね」
六路木探偵はB6サイズのメモ用紙を僕の前に置いた。メモ用紙にはとある住所が書かれていた。
「この住所は月城才児が12月31日に向かう場所だ。そこで赤宮康介と相対する。恐らく何かしら仕掛けてる。月城才児一人では危険だろう。だから、あんたらは赤宮にも、先輩にも悟られないよう、近くで警戒して、何か起こるようなら先輩だけでも助け出せ。俺には出来ないからな。あんたら警察に頼むしかない」
「そんな事を急に言われても困りますよ。そもそも、この住所の場所で月城警視と赤宮が相対すると何故言い切れるのかが僕にはわからない」
「そんなものは単純だ。俺は赤宮康介について先輩に頼まれて調べ上げた。その情報と先輩から聞いた話を元に考えれば明言できるさ。あの2人は同じなんだよ。ただ、信じる正義ってやつが異なっているだけだ」
「どう言う意味です?月城警視とあの殺人鬼が同じとはとても思えませんが」
「同じさ。お前も聞いてるだろ先輩の過去。あの2人は同じ人間に一番大切な人間を殺されている。そして、それをきっかけにして人生を狂わされた。赤宮と先輩は偶然か必然か、よく似た境遇にいた事になる。なにより、2人は正義感が強い」
「そうか……。そう考えると似ているのかもしれません」
「まあ納得できなくても良いさ。俺からすりゃ12月31日の夜にあんたら警察が動いてくれりゃそれで良い」
六路木探偵のこれまでの話、警察内での評価から考えてもこの要望は聞いた方が良いように思う。
きっと月城警視の事だ。1人で解決しようとするのだ。僕たちが動く事を知れば無理矢理にでも止めようとしてくるだろうから全体に周知するのはギリギリまで舞ったほうが良いだろう。
「話はわかりました。その時になったら僕たちは動きます。恐らく貴方の名前を出せば少なからず信用は得られると思います」
「そうか。それじゃあ頼む。そろそろ仕事に戻らないとまずいんでね。お暇させてもらう」
話を終えた六路木探偵はそそくさとコーヒーを飲み終えるとカップを返却棚に持って行って店外へと出ていった。
僕は椅子にもたれかかって天井を眺めてため息を吐く。
僕は未だ手をつけていなかったぬるんだコーヒーを一口。
自然と長いため息が出てくる。月城警視に悟られる事なく動かなければならないというのは随分骨の折れる話だ。堺警部らと秘密裏に相談してうまいこと決めていかないといけないだろう。
ふと後ろを振り向くと、遠く窓の外にはいつの間にか雪が舞っている。
天気予報によればそう長く降る事はないそうだから、交通機関に影響が出るような事はないだろう。
とはいえ、天気予報が絶対に当たる訳ではない。早めに帰宅するに越した事はない。
残ったコーヒーを飲み終えると、僕は退店して帰路についた。
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