第60話 進展
家に戻ってきた。休息の時間はあるが、そうゆっくりしている暇はないだろう。何か起こればどんな状況でも警視庁へと飛んでいかないとならない。これは警察官である以上仕方のない事だが、今は少しでも長く寝かせてほしいと心底願っている。
食事を作っている時間も勿体無いので買いためておいた冷凍パスタを取り出してレンジに入れて指定時間通り加熱する。
パスタを温めている間にシャワーで済ませる。
風呂から上がると寝巻きに着替えてすぐに食事をとる。満腹とまではならないが、すぐに寝るのだ。少しお腹に溜まるくらいで丁度いいというものだ。
寝床について目を閉じると僕の意識はすぐに失われた。
電話の着信で目を覚ます。真っ暗な部屋で薄く光る携帯電話に手を伸ばして電話をとる。電話先の相手は矢田坂警部補のようだ。寝床から起き上がると電話に出る。
「もしもし、黛です。何かありましたか?」
『黛警部、お休みのところ申し訳ありません。2時間前に赤宮の支援者を捕らえたのですが、そいつがアジトの位置を吐きました』
「なんだって!?わかりました。月城警視には報告していますか?」
『重要情報でしたからすぐに報告しました。月城警視はすぐに警視庁へ向かうと』
「了解です。僕もすぐに向かいます」
矢田坂警部補との電話を終えると、すぐに月城警視から電話がかかってきた。
『黛君、おはようございます。矢田坂君から話は聞きましたね?』
「ああ、おはようございます。ええ、今報告を受けたところです」
『では、すぐに準備を。今私が車で君の家に向かっています。あと5分程で到着しますから、下まで降りておいてくださいね』
「はい、わかりました。すぐに降ります」
電話を切って時間を確認すると時刻は午前4時12分であった。
僕はスーツに袖を通して、コートを羽織ると鍵と必要最低限の物を手に持って急いで部屋を出る。
まだ朝早い4時。一番冷える時間帯だけあって外は風が強くて凍える寒さだ。
すぐさまエレベーターに乗り込むと、ネクタイを整えて、寝癖を手で押さえ込む。
外に出ると、タイミングよく月城警視のs7がやってきた。僕は停車したと同時にすぐさま助手席に乗り込む。
「どうもありがとうございます。月城警視」
「君は足がありませんからね。これくらいは構いませんよ。急ぎましょうか」
警視は僕がシートベルトをつけるのを見るとすぐさまアクセルを踏み込んだ。
「私がいない間、随分と大変だったようですね」
「そりゃあもう。まともに寝れやしなかったですよ」
「そうでしょう。寝起きの顔だというのにやつれている」
「どんだけ疲れていても顔色変えない警視が、どれだけ異常かよく分かりましたよ」
いつも通りのやり取りをすることに懐かしさを覚える。ほんの2週間ほど会っていなかっただけなのだが、あまりの忙しさでこの2週間をあまりに長く感じていたからかもしれない。
月城警視はここで一呼吸おいて、苦い顔をして話を切り出す。
「……私に関して、警視庁で何やら噂が立っているそうですね」
長期休暇中に騒がれるようになった噂だというのに、どこで聞いたのかわからないがどうやら知っているようだ。
「そうですね。そんな事実はどこにもないでしょう?」
「ええ、懲戒免職とは言われてませんから。私が自己都合で警察官を退官するという事実しかありません。こういう噂はしっかり否定しておかないと面倒です。もう一度私の口から説明しないといけませんかね」
「そうするしかないでしょうね。ご苦労なことです」
「仕方がありませんね。……さて、警視庁に着きましたね。まずは捕らえた支援者から得られた情報を詳しく聞きましょうか」
「ええ、そうしましょう」
地下駐車場に車を停めると、僕と警視は揃って警視庁内へと向かっていく。
もしアジトを抑えることができるならば、僕たちはようやく赤宮康介の尻尾を捕まえることができる。ここから一気に赤宮の身元を捕らえるところまで漕ぎ着けたいところだ。
もう時間は残り少ない。警視が警視である間に、赤宮康介を捕らえるのだ。
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