黛と探偵
第58話 12月10日
12月10日。月城警視が長期休暇を取ってからというもの、警視庁内では様々な憶測が飛び交っている。話のタネになっている月城警視がいないことがそれを助長しているようだ。
噂というのは月城警視が懲戒解雇処分となったのではないかという話だ。
既に月城警視の口から今年いっぱいで自己都合により、警察官を退官することになったと周知されている。正式に決まった事実であると皆わかっているはずなのだが、一部の者は赤宮事件における責任問題で捜査を指揮していた月城警視が責任を取るのは当然の話で、部下の殉職、護衛していた荻原氏を殺害されるのを阻止できなかった事、部下の中に赤宮の協力者が紛れ込んでいたことを考えれば懲戒解雇になってしかるべきであるから、月城警視はそれを自己都合とごまかして我々に伝えたのではないか言うのだ。
僕は月城警視と赤宮事件を追う中でその性格をよく知っている。あの人は嘘をつくような人ではない。
2日ほど前に堺警部、矢田坂警部補、坂下警部補と食事をする機会があった。話の内容はもちろん月城警視に関してだ。
噂についてはもちろん知っているようで、月城警視と事件を追ってきた3人だ。事実無根の噂について真偽を何度となく確かめられてへきへきしているようだ。
月城警視がいない今、この4人で赤宮事件の捜査を指揮して隠れ家を見つけ出し、月城警視が退官するより前に逮捕にこぎつけたい。
それが現実味のない理想論であることはその場にいる全員が解っていたが、そういう気概で行かなければ赤宮逮捕はできないだろうと話したのだ。
ただ夕食を食べに行っただけで30分ほどしか話していないのでそれ以上何も話していないが、少し話しただけでも気はまぎれた。
しかし、多少気がまぎれたくらいでは今の忙しさの前では慰めにもならなかった。
僕は捜査本部と現場を行ったり来たりする日々を一旦終えて一度帰宅する。月城警視が休暇を取ってからというもの、家に帰る時間もなかった。噂の件もあってかなり疲れている。
警視庁から有楽町方面に歩いていく。すると街灯のそばに立つカーキー色のトレンチコートを羽織った男が立っていた。
男は僕に気が付くと駆け寄ってきて、こんばんわと声をかけてきた。その手には名刺が握られている。
「黛翔琉警部だな?俺は六路木心護。探偵だ」
そういって名刺を僕に渡した。受け取って僕は何の用か問いかけた。
「こんな寒い中話すのは何だろう。どこかカフェにでも入って話そう。お疲れだろうが付き合ってくれないか?月城才児についての話だ」
月城警視の話と言われ僕の目は少し見開いた。月城警視の話なら断る理由はない。
「わかりました。話を聞きましょう」
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