第55話 月城才児の墓参り
墓参りに来るのは随分と久しぶりだ。赤宮事件以前から仕事詰めでどうしても来ることができなかった。
あれからもう14年。一か月すれば15年前になるが、墓参りには3回しか来れなかった。
小さな墓地の角の質素な墓。苔むして汚れている墓を見るにろくに手入れはされていないようだ。家族は来ていないのだろうか。
私は持参した水入りバケツを足元に置いて、雑巾とスポンジを使って綺麗にしていく。ここまで汚れているのならばブラシでもあったほうが良かったかもしれない。
苔の汚れを落とすのに苦労した。私自身ここまで汚れた墓を掃除したことがなかったし、掃除のプロではないのでそう綺麗には出来なかった。しかし、掃除前から考えれば幾分かマシだろう。
「お久しぶりです。山寺さん」
私は線香に火をつけて供えると手を合わせる。
「あなたの孫を捕まえるため、この三年間ずっと追ってきましたが、今月中にけりをつけることになりそうです。宏海くんもそのつもりのようです。今日なのですが、彼から絵が送られてきました。あなたの言っていた通り素晴らしい絵の才能です。彼なら画家として大成したでしょう。残念なことですよ」
頬に冷たいものを感じて上を見上げる。空はどんよりとした雲が覆っていて白い結晶が降ってくる。今年は随分と早い初雪だ。
「私は宏海くんを捕まえますよ。たとえ死期が近いと言ってもね。それが警察官としての最後の仕事です。ちゃんと叱ってやってくださいよ。山寺さん。……また来年報告に来ます。その頃にはもう警察官ではない何者かになっているでしょうけれど」
私は踵を返して駐車場に向かう。ここから車で15分ほど行った霊園に月城家の墓がある。母の墓参りにもろくに行けていなかった。
バケツの水を所定の場所で流して車のトランクに詰め込んで、車を走らせた。
月城家の墓は小高い丘の上の霊園にある。霊園の中でも一番広い敷地に建てられた豪華な墓。汚れ一つなく、まだ生き生きとしている生花が備えられている。どうやら今日誰かが墓参りに来たらしい。父か、姉か、それとも弟か、誰かはわからないがブッキングしなくて助かった。弟はともかくとして、父や姉とはあまり顔を合わせたくない。それはきっと私が会うのを何処かで嫌がっているだけなのだ。
線香を備えて手を合わせる。
「なかなか来れず申し訳ありません。母さん。仕事が忙しかったものでなかなか来れませんでした。でも、安心してください。これからは年一回はこうして参ることができそうです。私は警察官を退官することとなりました。母さんはそちらで私のこの決断をどう思われたのかわかりませんが、憎しみと復讐心で警察官になった不純な私でもまともな警察官としてこれまで働けました。あとは今の仕事を完遂できれば悔いはありません。そう、私は月城グループに戻るつもりはありません。今更戻る気にもなりませんからね。それは許してください。では、もう行きます。また来ますよ」
2件の墓参りを終えて私は少しホッとしていた。理由はわからない。墓参りにこれていなかったことが少し申し訳ないと思っていたからだろうか?自分の事がわからなくなる事というのは時折あることだ。こういう場合、深く考えてしまうのは悪手だ。気にしないことも時には大事なのだ。
まだ約束まで時間がある。少し早いかもしれないが夕食を済ませておくことにした。
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