第52話  闇医者

 深夜になるころには鎮痛剤が効いたのか体調は幾分と楽になっていた。体を起こしてゆっくりと立ち上がる。少々ふらつくが歩くことくらいはできそうだ。


「いくら鎮痛剤飲んで楽になったっつってもあんま動き回るんじゃねぇよ」


 瓶ビールをラッパ飲みしていたジョンソン山中が語気を強めて注意してきた。厳ついなりをしているようで案外良心がある。


「わかっていますよ。トイレくらい自力で行けないと困るでしょう?」


「そりゃあな。てめぇの介護なんざしたかねぇよ」


「闇医者は深夜3時に来るのでしたね?」


「ああ。詳しい検査はしないっつってたが、採血くらいはするんじゃねぇか?」


「わかりました。では少々失礼」


 私はそれだけ言ってトイレに向かった。


 トイレを済ませてソファで休んでいると闇医者が到着した。大きな問診鞄を右手で持った長身細身、頬のこけた私より病人に見える男は名前を大骨大智という。見てくれから怪しい雰囲気が漂っているが、まっとうに生きていれば世界的名医と呼ばれていたかもしれないという。すべて本人談である以上、審議は不明だが腕は確かだ。

 

「人目につかずここに来るのは大変だった。外は警察の目がかなり厳しくなっている」


「それは申し訳ない」


「構いはしない。我々は君を肯定している。いつの世にも君のような者は必要となるだろう。故にこちらも君の診察、治療を無償で行っているのだ」


「有難いことです。早速ですが、診察を頼みます」


 大骨は問診鞄を広げて心拍、血液採取、できる限りの検査を行う。


「血液検査の結果は追って報告する。詳しいことはわからないが、少なくとも病状は芳しくない。今年いっぱいならなんとか動けるだろうが、来年となれば動くこともままならなくなる。なんとか動けるとはいえ、12月にもなれば全身に痛みが出るはずだ」


「そうですか。どうにかなりますか?」


「……大晦日までもてばよかったのだったな。ならば、良いだろう。これを処方しておく」


 大骨が取り出したのは一つの小瓶。中に入っているのは麻薬であった。恐らく医療用ではなく密輸された法外の物だろう。


「今の鎮痛剤でダメなら使うと良い。上手く使えば中毒までにはならない」


「わかりました。有り難く使わせもらいましょう」


「とにかく無理はしないでくれ。無理をすればそれだけ死期を早める」


「わかっていますよ」


 大骨はすこし訝しむような顔をしたが、すぐに振り返り、夜の闇へと歩いていった。

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