第47話 山中の告白

 話を終えて捜査一課へ戻る途中、山中警部の聴取を担当していたはずの轟警部が腕を組んで歩いてくる。


「おや、轟くん。どうしてこんなところにいるのです?」


「は、月城警視!加賀警視正とのお話は終わったのですな?」


「ええ、先ほどね」


「そうですか。それではすぐに聴取室に来てくれやしませんか?山中の奴が月城警視にしか口を割らんと言うんです」


 私にしか話せない。そう山中警部が言ったと言うことは、彼は赤宮康介……いえ、山寺宏海についての話であろう。


「わかりました。すぐに行きましょう。轟くん、聴取しているのは誰ですか?」


「黛がやっとります」


「そうですか、ありがとう。轟くんは聴取室に戻らなくても良いですよ。後は私がやります」


 私はすぐに聴取室へと赴いた。

 扉を開けると黛くんと山中警部が向かい合っていた。

 山中警部は背もたれに背を押し付けて両手を後頭部にまわして暇そうに上を眺めて欠伸をした。


「月城警視、お疲れ様です」


「黛くん、ご苦労でした。ここからは私が聴取をします。君は外で見ていてください。……ああそれと、ボイスレコーダーのような外部に音声が漏れるようなものは全て切ってください。きっと、そうでもしないと彼は話さない」


 黛くんは不服そうな顔をしたが、わかりましたと言ってレコーダーのスイッチを切った。

 黛くんが退出するのを確認すると私は内側から鍵をかけて誰も入れないようにした。


「いやはや、察しが良くて有り難いですねぇ」


「それはどうも。では、話してもらいましょうか」


 私が席に着くと、山中警部は真剣な顔になり体を前に倒して机の上に両肘を置いて顔の前で手を組んだ。


「……月城警視、赤宮康介はもう長くないんですよ」


「どういう事ですか?」


 突然の言葉に私は椅子から立ち上がった。


「長くないとは、どういうことです?」


「言葉通り、赤宮康介、いや山寺宏海はあと一年ほどしか生きられないんですよ」


「病気なんですか?」


「……ガンですよ。悪性のリンパ腫。だから山寺宏海はこの約三年の間、短期間の間に殺人を犯し続けたんです。それが山寺宏海の正義でした」


「……必要悪になろうとした。そう言うことですか?」


「そうでしょうね。俺も全てを知らされているわけではない。多分わざとでしょう。山寺宏海は月城警視にとっても苦い記憶の日で、山寺寛治の命日に、山寺寛治の死んだあの場所で想いの全てを吐き出したいんでしょう」


 あの日。その言葉だけで山寺寛治の命日を指定してきたということはわかっていたし、そこで赤宮康介として何かをするつもりだとわかっていた。

 しかし、彼が余命一年程だと知った今、私の胸は握られたように痛かった。


「……月城警視、山寺宏海が赤宮康介となったのはそれだけ覚悟があったんです」


「ええ、良くわかりました。彼にも尋常ならざる覚悟があったのだとね」


「……俺に話せるのはこれだけだ。後は本人の口から直接聞いてください」


「ええ。……山中警部、重要な情報をありがとう」


 私は聴取室から退出すると黛くんに後を任せて、自身のデスクに戻った。

 あの日までにこの仕事を済ませておかねばならない。彼と向かい合う前に、私も全てを投げうたねばならないのだ。


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