赤宮康介の正体

第44話 ヤマデラ

 一夜明けて、赤宮康介による荻原邸殺人事件は多くのメディアで取り上げられ、一面ニュースを総なめすることとなった。

 警察側の警備について専門家達が各々の見解を述べている。その殆どが批判的な内容であった。

 現に、守るべき荻原氏を守れず、犯人には荻原邸内への侵入だけでなく、ヘリで堂々と逃げられてしまったのだ。

 私は現場責任者として会見。夕方には会見の様子が放送された。頭を下げ、これまで以上の大規模な捜査を行うことを発表した。

 一日中休むことなく仕事に追われ、寝ることを忘れるほどだった。

 翌日、コーヒーを飲み眠気をかき消して仕事をする私の元に加賀警視正からの呼び出しがかかった。

 私は引き出しから茶封筒を取り出して懐にしまうと立ち上がり、警視正の部屋へと赴いた。


「失礼します」


 ドアを開けて中に入ると小太りの男性がソファーに座って私を待っていた。テーブルには入れたてのコーヒーが入ったティーカップが二つ。


「ああ、来たか。まあかけたまえ」


「はい。失礼します」


 私は加賀警視正の向かいのソファーに腰を下ろした。


「一昨日の事件から寝ずに仕事をしていたのだろう。お疲れだな」


「私のとれる責任はとらねばなりません。寝ている暇などないですよ」


「だからと言って無理はいかんよ。……まあ楽にしなさい。落ち着いて話をしよう。まず、そうだな。赤宮康介に実際に正対して睨みあったそうだね。以前君が言っていた疑惑について改めて君の見解聞きたい」


 ここに呼ばれた時になんとなく気がついていた。きっとその事を聞きたいのだろうと。


「はい。今回、赤宮康介と実際に相対し、話して確信しました。以前、赤宮からの手紙に同封されていた写真の件でお伝えした疑念。それは真実であると」


「……そうか。では、赤宮康介は間違いなくアイツの孫なのだね?」


「はい。彼は山寺さんの孫です。本名は……」


「山寺宏海ひろみ。君の元上司であり、私の親友であった山寺寛治の孫。……なんとも皮肉な巡り合わせだな」


「……そう、ですね」


 山寺寛治。それはキャリア組として刑事になった私の初めての上司であり、私に刑事デカとしてのイロハを叩き込んでくれた恩人。そして、私が初めて尊敬した人だった。

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