第41話 追い詰めた先

 因縁の二人がにらみ合う空間は異様な雰囲気に包まれていた。首の皮一枚を挟んでそこに突き立っているナイフに僕は動きを止められたまま体をわずかも動かすことができないでいる。


「お久しぶりですね。月城才児警視」


「そうですね。最後に君を直接見たのは後ろ姿だった。確か一年前でしたね?」


「そうでしたか?まあそんな事いいでしょう。なにせ今飛び込んでこなければ部下を失うところだったのだから」


「どうやらそのようですね。……まず武器を捨ててもらいましょう」


 懐から自動式拳銃取り出した。この距離で月城警視が外すわけがない。たとえ小さな目標でも確実に撃ち抜く精密性がある。

 赤宮もそれが解っているのかおとなしく両手を腕に挙げて手に持ったナイフを床に落とした。


「このままおとなしく捕まってもらいたいものですね」


「まさか。あなたたち警察が徹底警備している中、何の対策もしないで来ると思いますか?」


 赤宮はあげた手を勢いよく下に振り下ろすと服の袖から小さな物体が落ちると、強い閃光を放った。

 瞬時に月城警視が発砲したが、当たったかどうか判断できなかった。

 あまりの眩しさに目を閉じると、首筋のナイフが引き抜かれたような感覚があった。

 時間がたって目が見えるようになって、右を見ると、そこにはナイフを首に刺され、体をワイヤーでまるで操り人形のように吊り下げられた荻原周吾の亡骸だった。

 そのそばに赤宮が立っている。


「貴様っ!」


 僕が銃を構えて発砲しようとしたがその瞬間に右手に強い衝撃を受けて銃を落としてしまった。


「おっと、危ない。君は目が見えるようになるまでが早かったですね。黛刑事」


 手を見るとナイフが刺さっていて血が流れ出ている。普通なら痛みでひるんでいるところだが、アドレナリンが分泌されているから痛みを感じづらくなっているようだ。

 すぐさま左手で銃を拾ってかまえようとしたところで発砲音が聞こえた。

 赤宮の右腕から鮮血があふれ出た。見ると、月城警視の砲口から硝煙が出ているのが見えた。


「……ッ!なかなかやりますね。まだ目は完全に見えていない中正確に撃ち抜いてくるとは……」


「逃がしはしませんよ……。これ以上犯行を許すわけにはいかないですからね。それに君には聞きたいことが山ほどある」


「生憎、まだ捕まれないんですよ。もう少しであの日だから」


「あの日…………。まさか、やはり君はあの人の……」


「さあ、話は終わりです。私は逃げさせてもらいますよ。さようなら月城警視」


 赤宮は窓を開け放つと、軽快な動きで屋根の上へと向かっていった。

 僕は立ち上がって、赤宮を追おうとしたが、月城警視は仰天した顔で固まっていた。それほど赤宮の言ったあの日という言葉に意味があるとでもいうのだろうか?


「警視!追いましょう!今日なら捕らえられます!行きましょう!」


「……ええ、わかっています。行きましょう」


 僕は無線で荻原邸にいる刑事に無線で声をかけて刑事を集結させた。近くにいた堺警部に荻原氏の遺体を任せて、僕と月城警視は二人、屋根の上へと上がっていった。


「逃げ場はないぞ!赤宮!」


「さあ?それはどうでしょう?」


 赤宮は屋根の頂点で堂々とした姿で立っていた。しかし、それは諦めたような姿ではない。

 報道陣のライトが照らす赤宮の顔は、殺人鬼の顔ではなく、穏やかな好青年のように見えた。

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