第40話 潜入
息を潜めて刑事がこの家の中で私のことを待ち構えている。おそらく月城警視は二階にいるのだろう。
ワイヤーナイフのワイヤー先端を人差し指に巻き付けてかまえる。近距離で銃よりナイフの方が早い。距離があってもすぐに発砲はしないだろうから手にめがけて投擲すればいい。後はコンバットナイフで刺せば終わりだ。
生憎警察を作品にしている余裕はないし、声を上げられれば室内の刑事が一斉にやってくる。効率よく黙らせるために速攻で殺すことになるかもしれないが、それは許してもらおう。
一階は電気がついておらず、カーテンも閉め切られており光は一切室内に入らないようになっている。
これではいくら闇夜で目がきく者でも接近しなければ人相まではわからないだろう。
ゆっくりと部屋の中を見渡すとところどころに赤い点が見える。
(人感センサーか)
恐らくセンサーが人を感知すると警備している刑事に情報がいきわたり、ライトが点灯するような仕組みがあるのだ。これは厄介な罠を仕掛けてくれたものだ。
検知方法はおそらく赤外線。そして、刑事たちはセンサーにかかった瞬間に飛び出して取り押さえられるように、近い位置にいると考えられる。
入り口にセンサーが無いのは警察関係者が入ってきた時にいちいち反応してしまうからだろう。
私はすり足で慎重に進んで、まずキッチンから出た。
すると広々としたリビングダイニングにでる。家具は必要最低限の物があるだけで生活感があまりない。物で散らかっているような家だと物音を立てる心配があるがここではそんなことを考えなくていいから少しは気が楽だ。
暗闇にセンサーの赤い光が見えている。でたらめな配置ではなく、高さや角度を考えられており、広範囲をカバーできるようにしてある。流石、月城警視が指揮をとっているだけあって抜かりがない。
上手く搔い潜れないこともないが、時間がかかる。ゆっくり動いている犯人を見て、動き出さない刑事はいないだろう。それに一階から二階に上がる階段にたどり着いたとしても階段にセンサーがついているなら、どちらにせよ察知される。
ここは、強行突破するとしよう。私は一度キッチンに戻って、しゃがみこむとポケットから煙幕玉を取り出して、リビングダイニング中央に向かって投げ込んだ。
センサーが反応してライトが点灯すると同時に瞬間的に煙が部屋を覆いつくした。
「なんだこの煙は!山内、窓開けろ!」
「了解です」
「きっと赤宮だ!警戒しろ!」
騒ぎになって刑事たちがこの部屋に集まってきているようだ。私はその隙に、煙の中を突っ切って、リビングダイニングを出て、階段に最短で向かった。
階段の上には一人の刑事がいた。私は正確にナイフを投擲して、首に直撃させた。
「声を出されては困るんでね。すまないが静かに眠っていてくれ」
ナイフをワイヤーで回収して、二階に煙幕を投げた。
階段を駆け上がって刑事の屍を飛び越えると、真っすぐ廊下を走り、突き当りの扉を開けてワイヤーナイフをまっすぐ投げて腕を引き、右に手を大きく振ってナイフの軌道を変えた。
同時に左手で懐からコンバットナイフを取り出して右に突き出した。
「どうも、優秀な警部さん方。赤宮です」
私のナイフは正確に二人の刑事の動きを止めた。私の右で待ち伏せていた刑事は、首筋にナイフを当てられて血がにじんでいる。部屋の奥で荻原を守るように拳銃を構えているの手には私の投げたナイフが突き刺さっている。
「お、お前が、赤宮か……」
「おっと、動くとこのナイフが首を掻っ切ってしまいますよ」
動こうとした刑事を脅すようにナイフに力を入れる。刑事は手を挙げて抵抗しないことを示した。
「さて、荻原、君を素晴らしい作品に変えて差し上げよう」
「そこまでだ。赤宮康介」
後ろから並々ならぬ気配を感じて、私は部屋の奥へと飛びのいた。
「ここで捕らえる。覚悟しなさい」
部屋の入り口に目を向けると、鬼のような形相をした月城才児がそこにいた。
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