第39話 侵入の術は……

 時刻は22時を回った。私とジョンソン山中は記者に成りすまして荻原氏の自宅前で待機している。上空では尾堀のヘリが中継ヘリに紛れて警察にばれないよう待機してくれている。


「ハンクから連絡はありますか?」


「いいや。まだだ」


 未だに機動隊の厳重な警備に隙はない。今日中にこの殺しは終わらせたいのだが、本当に大丈夫だろうか。上手くやってくれなければ困る。

 荻原邸の二階からは光が漏れている。あそこが荻原氏の寝室であるのは間違いないが、恐らく家のいたるところに月城警視の集めた精鋭が配置されている。侵入可能な場所はすべて警戒されていると言っていい。


「あんな封筒送らなきゃ楽だったものを……。たく、今になって後悔してねぇだろうな?」


「後悔なんてしていませんよ。大丈夫です。しいて言うならうまく潜入できるかどうかというところです。家に入ることができればどうにでもなりますよ」


「お前に自信があるならもういい。とりあえず俺は指定の場所に行っとくぜ?」


「ええ。回収はお願いします」


「任せな。……ああ、アイツにはお前に直接連絡するよう言っとくぜ」


「はい、お願いしますよ」


 ジョンソン山中には車で逃走経路に先行しておいてもらう。本気の月城才児から逃げ切るには彼の裏をかくような作戦が必要となってくる。

 きっと警察側は家に侵入した時点で検問を張られて包囲網の中に閉じ込めるつもりなのだ。となれば包囲網より外に味方を配置しておいて検問にかからない方法で包囲を速攻で抜け出す。上手くいけば警察をまくことができると踏んでいる。

 さて、逃走経路に関してより、今は侵入することだ。

 私は取材陣の人ごみをするすると抜けていって警備の配置が見えやすいところまで向かった。どうやら取材陣の方に警備を固めているらしい。しかし、この位置では全体の配置を見ることができない。


「尾堀君、上空からの映像をスマホに送ってください」


『了解』


 送られてきた尾堀のヘリについたカメラ映像を見ると、取材陣のいる家の正面より後ろの警備が薄い。特に家の勝手口あたりの人員が少ない。

 一見完璧な警備にあえて穴をあけておくと、人間の心理的に弱点を突こうとする。それを利用すれば任意に誘導することができる。だが、そんな罠にひっかっかるような私ではない。

 さてどうしようかと考えていると、ハンクから連絡が来た。


『赤宮さん。準備できましたよ。勝手口から入ってきて下さい』


「いま、その勝手口からの侵入を捨てたところなのだが、大丈夫なんだろうね?」


『ご心配なく。上手くやりましたんで。少々中の刑事を説得するのに時間がかかりましたが、うまくいきました。さあどうぞ』


「わかった。君を信じましょう」


 息を殺して消えるように記者の中から抜け出して事前調査で確認しておいた防犯カメラの死角を通って家の裏手に回った。

 裏手に回ると、一人の機動隊員がハンドサインで空を見るように指示を出した。どうやら、勝手口を警備する機動隊は支援者であるようだ。

 上空のヘリのカメラから死角になったタイミングで勝手口まで進ませてくれた。


「ありがとう。助かりました」


「なんの。成功を祈っています」


「ありがとう。では……」


 勝手口を開けると暗い室内に複数の人の気配がする。これは二階に行くだけでも骨が折れそうだ。


「さて、始めようか」


 ワイヤー付きナイフを取り出した。ここからがお楽しみだ。

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