第38話 最終準備

 駿河が帰った後、作戦決行のため準備を始めた。

 ワイヤー付きナイフの調子もいい。いつもメインで使っているナイフの刃をよくよく確認した。少々切れ味が落ちているようだった。砥石を取り出した。しっかりと研いでおかなければ人体を切り裂けない。切れ味の鈍い刃では無駄に苦しめるだけになる。私は人を殺す際に苦しませずに殺すようにしている。せめてもの情けというものだ。

 警察がいるのだから逃げ切るための道具も必要になる。脱出手段はあるからいいもののそれまでに時間稼ぎをしなければならない。煙幕や催涙ガスが少しあるが、人数が人数だ。


「ジョンソン山中、大人数を足止めできて、我々に影響がないものってあります?」


「あ?そうだな……。それこそハンクの出番だろ」


「しかし、それでは彼が捕まる」


「それが一番確実だろ?」


「君はそれでいいのですか?」


「構わんさ。俺は金さえ手に入りゃあなんだっていいんだよ」


「そうですか。まあでもそれは最終手段です。今あるものでなんとかできるなら何とかしましょう」


「へーへーわかったよ。一応フラッシュバンとかあるぞ?」


「どこで仕入れたのです?」


「そりゃ裏ルートに決まってんだろ」


「痕跡は残してませんね?」


「当たり前だ。俺は裏社会なげぇんだ」


「それならいいです」


 フラッシュバンは火殺傷兵器で強烈な光と音で敵を無力化するものだ。しかし、その特性故至近距離で使えばこちらも被害を受けるため、機動隊無力化に使うのがいいだろう。

 催涙ガスを使うとなればガスマスクも必要だが、荷物が増えるのはあまりよくない。できれば服のポケットの入るものだけでどうにかしたいところだ。


「んで?どういう殺しにする?」


「マリオネットのようにはしますよ。まあ簡易的にしますけどね」


「まあそこはうまくやってくれ。金にならなきゃ仕方がねえ」


「そこはご心配なく。上手くやりますよ」


 時間がないとしてもどうにかできると思う。月城才児相手である以上難しいのはわかっている。が、これを成し遂げられれば最高の作品を作り上げることもできるだろう。

 殺しの前はいつも何にも感じない。だが、今回は不思議な高揚感があった。困難な状況を楽しんでいるのかもしれない。


「おい、ハンクが、何とか隙を作れそうだとよ。時間はかかるが日をまたぐ前にはどうにかできるとさ」


「そうですか。それはよかった。では荷物を身に着けたら車で待機しましょう。すぐに行けるようにしておかないとですからね」


「ああ、そうしよう」


 さあ、もうすぐだ。

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