第36話 墓参り
墓に来るなんて“血の芸術家”として活動を開始する決意を固めて以来だった。あの日もちょうどこんな暑くて晴れた日だった。
小さな墓地の角、そこに質素な墓が静かに立っている。苔が生え風雨で汚れた墓は見るも無残だった。
「爺さん。来たよ」
しゃがみこんで手を合わせた。こうして墓に来ているときだけは本来の自分に戻れているように感じる。自分を偽るというのはつらいものだ。この三年ほど、ずっと妙な苦しさを感じて過ごしてきた。それもあと少しで終わるだろう。
ここまでやってきたことに後悔をしたことはない。爺さんと同じ道をたどる方法もあったがそれではできないことが多すぎた。きっとあっちで爺さんは三年前から怒っているだろう。爺さんは正義感が強くて人命を第一な考える人だったのだから当然だ。
「爺さん、あんたと写った写真を送りつけてやったよ。あの写真と根拠がそろえばきっと俺の素性も警視庁一の切れ者なら見破るだろう。あんたとの関係性も自然と浮かび上がる。そうなった時、月城才児はなんて顔するかね?悲しそうな顔か、はたまた呆然とするか。それを見るのが楽しみだ」
俺と爺さんの関係性は月城才児にとって知らない方がいい真実だろう。知ればあの人はこの連続殺人に及んだ理由を理解するだろう。その代わりに爺さんとの関わりを知って混乱して、俺を捕まえるのを躊躇する。そうなれば高確率で俺は計画の最終段階へと迎えられる。
「さて、そろそろ行くかな。爺さん、もう少ししたらまた会いに来る」
立ち上がって一礼するとその場をすぐに離れた。指名手配犯である以上一か所に留まっているなんて危険でしかない。今日が決行日だというのに殺人を決行する前に捕まってはこれまでの準備が無駄になり、ここまでの計画も破綻してしまう。
今日の殺人を完遂し、逃げ切らねばならない。そのための前準備がそろそろ整うはずだ。
携帯電話が鳴り響いた。画面には尾堀と表示されている。
「もしもし、尾堀くんですか」
「おう。ヘリの方は何とかなったぜ。決行前にまた電話してくれよ」
「ええわかりました。それではしばらく待機しておいてくださいね」
「おう、いつでも構わねぇからな」
これであとはあの警備を突き崩して家の中に侵入する方法を考えなければならない。
見つからないよう慎重にアジトに帰って、まずハンクに行動するよう命令してくとしよう。彼が暗躍してくれれば問題ない。
時刻は正午になっていた。
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