荻原殺害作戦決行日
第35話 墓参りへ
テレビをつけるとターゲットの家の前に野次馬や報道陣が詰めかけていた。家の周りは機動隊が囲んでいて隙のない陣形をとっている。現場指揮は間違いなく月城警視だ。流石にここまでこの私を追ってきただけあって用意周到だ。
「おいおい、こりゃあ近づけねえぞ赤宮?」
「そりゃあ普通に行ったら無理でしょう。でも、こちらにはあの守りを崩すことができる奥の手があるでしょう?」
「ああ、そういやそうか。だがよ、あいつがあの場にいるのか?」
「心配しなくても大丈夫ですよ。すでに連絡は入れてあります。おそらく深夜になればチャンスが訪れます」
深夜まで決行しないのは最初から決めていた。これには警察側を疲弊させる目的もあった。ああやって手紙を送りつけて犯行予告をすることでまず事件現場をある程度特定させる。そうすれば後は少しこちらが犯行現場近くで足跡を残しておけば確実にターゲットを特定してくれる。そうなれば犯行に及ぶであろう日にちは大方予想がつくだろう。それこそが狙いだ。警察はこちらがいつ仕掛け来てもいいよう鉄壁の守りを敷く。隙を見せればその隙に犯行を許すことを知っているからだ。月城警視は深夜になったら警備の人数を増やす筈だ。月城警視はこちらがどう出るか予想がついているだろうからきっとそうする。
本来ならもっと良い警備態勢を敷くこともできただろうが、状況的にはこちらが有利。月城警視としては不安の残る状態だろう。それでも現状できる最大限を尽くしこちらを迎え撃とうとしている。まったく恐ろしい人だ。万全の状態にさせていたら流石の私でも殺害をあきらめていたかもしれない
「おい、そもそもあんな手紙送り付けなきゃもっと楽に行けたんじゃねえのか?」
「それはそうですが、もうそろそろ時間がね」
「そうか、それもそうだな……」
私に残された時間はそうない。それまでに作品を作り上げなければならないのだ。
「最後まで付き合ってもらいますよ」
「構やしねぇよ。金がはいりゃなんだっていいんだ俺は」
「そうですか。ありがとう」
私は椅子から立ち上がってキャップを目深にかぶって伊達メガネをかけた。
「どっか行くのか?」
「少し墓参りに行きます」
「こんな時にかよ」
「こんな時だからですよ」
私は隠れ家ののエレベーターを使って地上へと出た。殺人鬼が墓参りというのは何だか変な気がするが、まあいいだろう。決行までは時間があるし、荻原邸に注意が向いていなければこうして外に一人で出て遠出なんてできないのだから。
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