第34話 決行日
最大限できることは行ってきた。荻原の担当事務所へ一昨日電話した時もかなり強い口調で厳重な警備と荻原の命を守ることを約束するよう言われ、警備人数を1.5倍に増やすことになった。
詰めかけるであろう報道陣や野次馬のボディーチェックや証明書確認をさせる。赤宮なら群衆に紛れて侵入してくる可能性が十分にあるのだ。
僕は拳銃を懐にしまうと荻原邸へと向かった。
警備中の荻原氏住居前には予想通り報道陣や野次馬連中が詰めかけていた。その人数は百人程。道路は車両と報道機材で埋まっており、車の通行が阻害されしまう。この人数のボディーチェックは骨が折れるだろう。
上空には報道ヘリが2機飛んでいて、サーチライトが荻原邸を照らし出している。
現在の状況ならば、赤宮がこの家に近づくことはできる可能性はあるかもしれないが、上空から見下ろすように報道ヘリが飛んでいて360度機動隊が見張っているのだ。屋内に侵入するのは不可能だろう。
僕は報道陣をかき分けて機動隊に警察手帳を見せる。機動隊員は敬礼をして通してくれる。
玄関に入ると水野巡査部長が立っていた。
「ご苦労様です。黛警部」
「お疲れ様です。荻原さんは寝室にいますね?」
「はい。堺警部もそちらに」
「そうか。ありがとう」
荻原氏の寝室のある二階に上がる。
寝室の扉を開くとベットの上で毛布にくるまって丸くなっているなんとも情けない姿の人気俳優が見えた。
「どうも遅くなりました」
「ああ、待ってましたよ。警備体制の説明は今終わったところです」
先に到着していた堺警部が諸々の説明はやってくれていたらしい。月城警視はもう来ているはずだがどこにいるのだろうか。
「ありがとうございます。警視は?」
「外で指揮してます。今回こそは捕まえようと躍起になっているようで」
「まあ、あの人なら空回りして失敗するようなことはないでしょう」
「それもそうですね」
今日の僕の役目はこの部屋で堺警部とともに荻原氏の命を守ることだ。堺警部は空手、柔道共に有段者で直接戦えば相当な手練れでない限り負けはしないだろう。
そして僕はというと射撃の命中精度が高いことから選ばれた。たとえ赤宮が武器を持っていたとしてもこちらで撃ち落とせれば、その瞬間に堺警部が取り押さえる。もちろんほかの部屋に刑事が待機しているのでそこからすぐに応援が来るが、赤宮からの攻撃を受ける可能性が高い。そうなれば、最悪死も覚悟しなければならない。
「今日は長丁場になりますよ」
「そうでしょうね。まあ、覚悟の上です」
僕は窓のカーテンを少し開けて外の様子を見た。報道陣の前に立ってインタビューを受けているのは月城警視だ。指示を出していたところを報道陣に捕まったのだろう。今日まで休みなく働き続けている月城警視のことは心配だが、今日にかける気持ちが強いのか疲れをまるで見せない。
とにかく今は自分にできることを精一杯やる以外にない。僕は気合を入れなおした。
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