第29話 被害者の関係性

 目を覚ますと正午ごろであった。寝床が悪かったというのもあるだろうがあまり眠れなかった。疲れは取れなかったが眠気は少々取れたような気がした。


「早く資料室に戻らないと……」


 大きく伸びをすると背中や腰がパキパキと音を立てた。


「よし、行こう」


 あまり上司を待たせるわけにはいかない。早足で資料室へ戻った。

 資料室の中に入ると月城警視が資料に向かっていた。顔は疲れているように見えたが、その眼差しは真剣で近づきがたい雰囲気を放っていた。


「黛くんですか。よく休めましたか?」


 警視は資料から目を離すことなく問うてきた。その声はいつもよりも低く威圧感のあるものだった。


「はい、おかげさまで」


「そうですか。それでは私も少しの間休ませてもらいます。引き継いで調査をお願いしますよ」


「わかりました。よく休んでください」


「ええ、では」


 月城警視は資料を広げたまま席を立ち資料室から退室していった。僕は席について資料に目を通す。どうやら月城警視は過去の事件を洗っていたようだ。傍に置いてあったノートにはめぼしい情報が書いていなかったところからあまり進展はなかったのであろう。もしかしたらそれが原因でイラっと来ていたのであろうか?だとすればあまり感情的にはならない月城警視にしては珍しいことだ。


「とにかく資料を読み進めるしかないか」


 赤宮事件の被害者と過去のあらゆる事件の加害者や被害者を見比べていくが全くと言っていいほど一致しない。これを24時間以上続けていたのだから精神的に相当負担がかかっていただろう。


「……まったく当てはまらない。別視点で見るべきなのか?うぅん、未解決でも漁ってみるか?」


 僕は未解決事件の資料が保管されている棚に向かうと30年前から現在までの未解決事件の資料を手に取った。赤宮が殺害した人物の年齢から逆算したうえで手に取ったのだがはたしてこれであっているのであろうか?


「まあ、目を通してみるしかないか……」


 30年前の事件から順に目を通す。事件の中には犯人が特定されているにもかかわらず時効を迎えた事件、犯人を絞り込めぬまま時効を迎えた事件と様々。容疑者候補や知人関係などあらゆる人物の情報に目を通す。一つの事件を読み終えるだけでもかなり体力を使う。


「ふう、こりゃ大変だ。さて次の事件はと……ん?」


 資料をめくると強盗殺人事件の資料であった。この事件の容疑者候補を見ると加藤真の名があった。


「な、まさか……」


 年齢や事件が起きた場所を詳しく見てみると、赤宮の最初のターゲットとなった加藤真であることが分かった。最有力の容疑者ではなかったようだがもし考えていることが正しいのであれば赤宮の狙いもわかってくる。

 真実に近づきかけたその時、資料室の扉が開いた。振り向くと月城警視が扉の隙間から姿を見せた


「黛くん、どうしました?そんな驚いたような顔をして」


「警視、もしかしたらわかったかもしれません。まだ不確かですがもし僕の考えが正しいのならば赤宮が殺害してきた人物の共通点が見えてきます」


「なんですって?それは一体」


「それは、未解決事件の容疑者。恐らく赤宮が殺害している人物が未解決事件を引き起こした犯人なのだと思います。未解決事件を洗いなおせば赤宮の殺害した人物と同一人物が出てくるのではないかと」


「成程、未解決事件は殆ど目を通していませんから、可能性は高そうですね。早速調べましょう」


 赤宮の被害者で最高齢は48歳。少年期に事件を起こしている可能性は低いと考えて僕たちは過去30年の未解決事件を虱潰しに調べていくことにした。

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