第25話 謎の小包

 アジトに戻ってくると小包がテーブルの上に置かれていた。ひどく臭う体を一刻も早く綺麗に洗い流したいと思っていたのだが、そんな気持ちは消え去った。


「ジョンソン山中、君のですか?」


 私は小声でジョンソン山中に尋ねた。もしも小包に盗聴器でも入っていれば話を聞かれ、こちらの声が知られることになる。


「ンなわけねーだろ。……お前じゃねぇのか?」


「私も心当たりがありません」


「んじゃ、支援者の誰かって事か?」


「そうとは考え辛い。このアジトを知っているのは私と君以外にはシガルトとハンクだけです。シガルトがこんなに早く来るわけがないですし、そもそも金を取りに来るという目的があるならば我々の帰りを待つ。ハンクは組織に潜入しています。今は潜入先の仕事でここに来る時間はないでしょう」


 改めて小包を見つめる。横幅20cm高さ15cmの茶色い紙袋で、口を乱雑に折り曲げてガムテープで閉じられている。

 袋の中央には『血の芸術家へ』と赤色の墨で書かれている。


「呪いの一品とかじゃねぇか?お前恨まれてるだろうからなぁ?」


「ふざけている場合ではないですよ。何かわからない以上警戒しないといけません。とりあえず、君はシャワーを浴びてきてください。私1人でこの中身を確認します」

 

「おいおい、中身がもしトラップだったらどうするつもりだ?爆弾とかよぉ?」


「大丈夫ですよ。例えそうだとしてもね」


「お前がそう言うならいいだろう。俺はこのどうしようもなく酷い臭いを落とさせてもらうぜ。」


 ジョンソン山中がシャワールームに入ったことを確認して、私は懐からワイヤー付きナイフを取り出し、小包の上部に投げ放った。

 ナイフは簡単に包みを突き抜けてテーブル先の椅子の背もたれに突き刺さった。

 私はワイヤーを引き戻してナイフを回収すると、ナイフで空いた穴に指を入れて袋を引き裂いた。

 中に入っていたのはボイスレコーダーであった。確認してみると録音された音声が一件残っている。


「再生しろと言うことですか……」


 私はボイスレコーダーの音声を再生した。音質は悪いが、聞いたことのある声が聞こえてきた。


『血の芸術家、赤宮康介。荻原周吾の動きが判明した。荻原は現在山梨にドラマ撮影で出かけている。1週間後に戻ってきて2日休暇を取る。休暇中はほとんど家から出ない。深夜1時以降であれば家で寝ている可能性が高い。この2日の休暇の間であれば殺しも可能だと考えられる。それを逃すと次のチャンスは1ヶ月後だ。どうするかはあなたに任せる。駿河より』


 ボイスレコーダーの音声は駿河からのものであった。しかし、駿河はこの場所を知らないはずであるが……


『ps、アジトの場所はハンクから聞いた。驚かせたのならすまない。以上』


「成る程、そういうことですか」


「おい、どうだったよ?」


 シャワールームから上がったジョンソン山中にボイスレコーダーを投げ渡した。


「駿河さんからの報告でした。どうやらこの場所はハンクから聞いだそうです」


「あ?ハンクがか?人の良いところもあるんだなあの野郎」


「ええ。まあお陰で殺しをする日は決まりました。1週間後の深夜2時。やりますよ」


「へっ!やるかぁ」


「さ、準備をしますよ」


「その前にお前はシャワー浴びろ。くせぇ」


 そういえば尾堀の家で臭いがこびりついているのであった。私はすぐさまシャワールームに駆け込んだ。

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