第23話 下見
約1週間ぶりの外は晴天で地下に籠もって人工的な光ばかりを浴びていた私には太陽の光はすこし眩しかった。
「そんで、どこに行くつもりだ?」
「着けばわかります」
「面倒くせぇな」
「まあそう言わずついて来てください。極力防犯カメラに映らないように移動しなくてはなりません。ここにいるのがバレると色々とまずいです」
この警戒態勢で居場所がバレれば逃れるのは難しい。どうにかなるにはなるが、それではターゲットを殺しにくくなる。
とはいえ、危険を冒してでもやらなければならないこともある。
歩みを進めて訪れたのは世田谷区成城。ターゲットである荻原氏の住う高級住宅地であり学園都市である。
「おい、殺す順番が重要ってのはこういうことか?」
「丁度世田谷区に近い場所にいるわけですから、この機会に殺るのが一番いいでしょう?」
まあそれだけではないのだが、そこまで彼に言う必要性はない。
「相変わらずキミ悪りぃ笑い方しやがる」
「とりあえず君は防犯カメラでも確認しておいてください。私は家の外観を見てきます」
「勝手に決めるなよ!」
「侵入ルートは実行する私が直接見た方が手っ取り早いという事です」
「金はたんまりもらうからなぁ」
「仕方がないですね。良いでしょう。それよりその大声、どうにかならないものなのですか?」
「悪いが生まれつきなんだ。治るもんじゃねぇのさ」
「なら口を閉じて大人しく防犯カメラの位置確認をしてください。あまり時間をかけると警察に遭遇するリスクが増す一方なのですから」
渋々防犯カメラ探しに向かったジョンソン山中を見送ると私は荻原氏の住まいをぐるりと一周して侵入できそうなルートを探っていく。
正面玄関には防犯カメラ、窓から侵入しようにも防犯窓になっていてハンマーでいくら叩いても壊れないだろう。
家を開けることが多い芸能人である荻原氏の防犯意識の高さがよくわかる。
とは言っても、防犯カメラに関しては何の意味もなさない。
ここまで逃げ切っている指名手配犯である私には防犯カメラの死角くらいわかっている。
「アンティーク調の鉄柵で囲われていて庭は薔薇が植わっている。これは、正面か裏の勝手口から侵入するのが一番安全そうですね。しかし、逆に言えばそこを徹底的に警備されると侵入はかなり厳しくなりますか……」
「おい、調べてきたぞ」
私が侵入方法を考えているとジョンソン山中が戻ってきた。防犯カメラに写らないように警戒して動いてくれているか少々不安があるが、彼が写るだけならあまり問題にならないか。
「ご苦労様です。どうでしたか?」
「流石に高級住宅地ってだけあるな。結構多い。それに、玄関に防犯カメラやセンサーライトが付いている家が多い。足取りを残さず逃げるのは中々難しいだろうぜ」
やはり想像通りだ。そうなれば逃走経路は一つだけだ。あとはあの手紙で警察が荻原邸の警備を固めて報道陣をかき集めてくれれば問題ない。
「……わかりました。それでは帰りましょうか」
「もうかよ……」
「あまり時間はかけたくないと言ったでしょう。まあただ帰るわけではありません。帰り際に会いたい人がいますから少し寄り道をします」
「あーわかったよ。っとに、面倒くせぇ」
あの男は気難しくて取っ付きにくい相手だが、こんな時には非常に頼りになる男である。間違いなく今回の殺しには必要になるだろう。
「それじゃあ行きましょうか」
彼の協力を得られれば逃げる算段は立つだろう。私は怪しまれないようにとっとと成城を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます