第20話 封筒の文字
デスクワークに勤しんでいるといつの間にか昼になっていた。
仕事をひと段落させて昼食でも取ろうかと考えていふと月城警視から声をかけられた。
「黛くん、昼食を一緒に食べませんか?」
「珍しいですね。警視から誘ってくるなんて」
「あまり聞かれたく話がありますから……」
「手紙の事で何か分かったんですか?」
「ええ、簡潔に言えばそうです」
「わかりました。じゃあこれ終わらせてからでも良いですか?」
「ええ、構いません」
あまり上司である月城警視を待たせるのは悪い。僕は急いで仕事をひと段落させた。
警視と共に僕は警視庁から出て近くのお店に入った。
店に入ると日替わりランチを注文して席についた。
捜査本部を取り仕切る立場の人間が警視庁から出ることは宜しくないのだが、それだけ聞かれたくないのだと理解するしかない。
「わざわざ外出するほどなんですか?」
「念には念を入れただけです」
「まあいいですけど、捜査本部に連絡きたらどうするつもりです?」
「大丈夫です。境警部達には携帯に連絡しろと言ってありますので」
「そうですか。まあならいい……訳ではないですよね?」
「あまり硬い事は言わない方がいいですよ。ルールに縛られすぎるのは良くありません。臨機応変に行動するのは大事ですよ」
優秀な刑事である事は勿論分かっているが、こういう発言をするときに思う。何故こんな人が警視になれたのだろうと。
「どうかしましたか?」
「いーえ?なんでも?」
「ならいいです。さて、そんなことより本題に入りましょう」
月城警視の目が明らかに変わった。僕は背筋を伸ばして警視の目を見つめる。
「黛くん。君は手紙を送るとき、どうしますか?」
「えっ?手紙を送る時……ですか?」
いきなりそんなことを聞かれると思ってもいなかった僕は言葉に詰まった。
なんとか答えを返そうと考えるが、僕はそもそも手紙など書いた事がないのだった。
「……失礼、君手紙なんて書いた事ないですよね」
「な、そんなことないですよ?て、手紙くらい……」
「無理に否定しようとしなくて結構ですよ。今頃は電子機器が発達して通信手段はいくらでもありますからね。手紙をわざわざ書くなんてことをする方は殆どいないでしょう」
一応フォローしてくれたのだろうが、何故か言い方が馬鹿にしているというか呆れられているように感じるのは気のせいだろうか?
「……そ、それで、手紙の書き方がなんなんですか?」
「あの手紙、手書きではなくパソコンで打ち込んだものでした。赤宮は用心深い男です。筆跡がバレることを恐れても不思議じゃあない。ですが……」
警視は懐から手紙の入っていたら封筒を取り出した。
「これを見てどう思いますか?」
「これを見てって……あっ」
封筒には手書きで警視庁の住所、月城才児様、赤宮康介とボールペンで書かれている。
「おかしいですよね。用心深いはずの赤宮がこんなことをするとは到底思えない」
「それじゃあ、この手紙は偽物ということですか」
「いえ、手紙そのものは本人のものでしょう」
何が言いたいのか分からない。
僕はてっきりこの封筒を見て、この手紙は偽物だ。DNA鑑定を頼んだものの必要がなくなったと言うものだと思っていた。
しかし、手紙は偽物ではないという。
「何故そう言えるんですか?」
「この手紙の文字を書いたのは恐らく左利きの人物です。情報によれば赤宮は右利きとのこと。つまりこの封筒の文字は別人が書いていると考えられます。よく見ればわかりますが、左側に少し黒い汚れがあります。それに文字の線に違和感がある」
文字の違和感はよくわからないが、封筒の左隅に黒い汚れがあるように見える。これがなんだというのだろうか?これで左利きと分かるのか?
「右利きの場合汚れができるとすれば右側です。つまり左側に汚れができるという事は左利きの可能性が高い。それに、この線の引き方ですが、もし君が横線を引くとするとどう引きますか?」
「えっ?普通に左から右に」
「この封筒の横線をよく見てみると左からではなく右から左に向けて線が引かれています。右利きなら分かると思いますが右から左に線を引くのは左から右に引くより難しいでしょう」
確かにそうだ。
何気なく行う行為だからあまり気にしていなかったが、こういうこともわかってしまうのか。
「そう考えればこの封筒の文字は左利きの人間と考えられるので、赤宮本人の字ではないということです」
「な、成る程」
「さて、ここから分かる事は、赤宮は複数人で潜伏していること、この封筒を郵便ポストに投函した人物は左利きで恐らく我々警察が把握できていない人物であるということくらいです」
「届いてからあまり時間経っていないのにそこまでよくわかりましたね」
「筆跡鑑定の経験があったからですよ。まあもっと詳しい事はDNA鑑定結果や手紙を深く読み解かないとわからないですがね」
「流石、経験豊富ですね」
「それ程でもありません。おっと、日替わりランチが出来たようです」
どうやらこの日のランチはサバの塩焼き定食のようだ。
「では、話も丁度終わりましたし、食べましょうか」
「ここまで計算してました?」
「まさか。たまたまですよ」
不敵な笑みを浮かべて僕を見ると、ご飯を食べ始めた。
やはりこの人は嫌味な人だと思った。
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