第16話 調査開始

 この地下空間にはWi-Fiなんて便利なものはない。

 よってパソコンなどつけたところでインターネットは全く使えない。それにもかかわらずパソコンを起動したのは別の理由があるからだ。


 パソコンが立ち上がりデフォルト設定の壁紙が映し出される。

 私はマウスを操作して【2008年 極秘ファイル】というファイルを開き、データをロードする。


 2008年6月18日空野景隆大量殺人事件


 2008年5月27日〜2008年6月18日に空野景隆当時37歳が起こした大量殺人事件。


 2008年5月27日、最初の犠牲者は交番に駐屯していた坂野巡査を殺害して銃(ニューナンブM60)を強奪。

 奪った銃で自宅付近の住民宅に忍び込み、家族3人を殺害。その後別の家でも2人殺害。


 2008年5月29日、自宅から逃げ、ネットカフェを転々として逃げ続ける。警察の捜査が難航。


 2008年6月1日、またも交番で殺害事件を起こす。この際に山梨巡査のサクラを奪う。


 2008年6月2日、空野景隆を指名手配犯とする。目撃情報は相次ぐが、なかなかその尻尾を捕まえられない日々が続く。



「何見たんだ?」


 ジョンソン山中がパソコンを覗き込んで来ようとしたところで私はデータをシャットダウンした。


「いえ、なんでもありませんよ」


「いや、なんか見てたな?何だよ?教えろ」


「申し訳ないですがこればかりは教えられません」


「作品作りに影響するものだからか?」


「ええ、その通りです。変な詮索はやめていただきたい」


「あっそうかい。ならいいさ。……あーそうだ。駿河の野郎に調査依頼出しといたぜ」


「ありがとうございます。いつ頃情報を持ってくるでしょうか?」


「さあな?ま、1ヶ月はかかるんじゃねぇか?」


「そうですか、まあ気長に待ちましょう」


 私は再びパソコンに向かう。

 Wardを立ち上げて文章を打ち込む。


「少し彼らに挑発を入れてあげましょう」


「警視庁捜査一課月城才児殿


 今回の作品は如何だったでしょうか?

 あの部屋に似つかわしくない家具が私の作品までもを汚すというのは我慢ならなかったのですが、作品自体だけみれば素晴らしいでしょう?


 さて、今回は少さだけ、私の次の作品のヒントを与えましょう。

 次の作品は都内在住の有名人。今日の作品より素晴らしい作品をお見せできるでしょう。


 記念すべき30作品目です。見に来てくださいますよね?

 私をもっと楽しませてください。


『血の芸術家』赤宮康介」



「おいおい、犯行声明なんぞ出して殺害しにくくしてどうする?厄介なことになるぜ?」


「いえいえ、有名人としか書いていないではないですか?逆に撹乱させることができます」


「そう上手くいくか?」


「上手く行かせるんですよ」


 私はコピー機で文章をコピーして封筒に封入する。


「さて、ここから少し頭脳戦を楽しみましょうか」

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