第14話 殺しの美術を追求する者

 逃げた先も10畳ほどのコンクリートむき出しの部屋がある。内装もほぼ同じで使いやすい。

 私は椅子に腰掛けて懐からメモ帳を取り出した。


 メモ帳にはターゲットの名前、年齢、住所、職業や趣味が書かれており、在宅時間も調べて書いてある。


「さて、次は誰を殺しましょうかねぇ?」


「誰でもいいだろう?作品作ってもらえりゃ俺たちゃいいんだよ。金稼ぎがしてぇんだからよ」


「ジョンソン山中、君たちからしたらそうかもしれませんが私には重要なのですよ」


 そう、順番が大切なのだ。

 私が殺してきた人間は現在29人、私の予定ではあと2作品作り上げる予定となっている。

 メモ帳にもその予定でリサーチしているのだが、予定外は恐らく起こるだろう。

 イレギュラーは対処できるよう頭には対策が入っている。


「ほぉう?前にも言っていたがそんなに重要か?」


「ええ、非常に重要です。詳しくは言いませんけどね」


「その秘密主義どうにかならねぇのか?」


「先天的なものなのでそこは許してください」


 私はメモ帳に目を向ける。

 既に作品となった者は斜線を引いてわかりやすくしている。

 スラスラとめくっていき、手を止めたのは30人目のターゲットの概要が書かれたページとターゲットの写真。


「萩原周吾、34歳男性。日本で今話題の俳優でテレビ番組に引っ張りだこ。空手3段の実力者で都大会優勝経験あり。在宅時間は曖昧で殆ど家にいないという証言もあり……」


「それが次のターゲットなのかよ?」


「ええ、そうですよ」


「また随分と難易度の高い殺しだなぁ?えぇ?人気者で動きもちゃんと掴めてない、それに警察の厳重警戒の中だぜぇ?やれんのかよ?」


 確かに作品制作難易度は今までで一番高いだろう。これまでは若手社長や著名人などでテレビなどのメディア出演はしていない。

 しかし、今回はテレビに引っ張りだこの有名人。

 一発で成功させる必要があるのはいつものことなのだが、明らかに難易度が違う。セキュリティは今日と同レベルだとしても動きがわからないというのが厄介だ。

 それに、この男を殺せば警察の動きもさらに過激になるだろう。そうなると相当逃げにくくなる。

 こちらの動きが制限されることになり、それ以降の殺しもしにくくなる。

 しかし、順番は重要なのだ。次はこの男を殺すと決まっている。

 さて問題はどう殺すかだが、今日仕入れた投げナイフは利用したい。


 …………。


 そうだな。次のターゲットにはマリオネットのような姿になってもらうとしよう。この回収機能付き投げナイフのワイヤーも利用しやすいだろう。


「ふふふ、次の作品をどうするかは決まりました。あとはどこでどうやるかですね」


「相変わらず不敵な笑み浮かべるなぁてめぇは」


 私は頷き、考え始めた。

 私は殺しの美術を求める。私にとって作品制作の全ての行為も全て私の芸術、美術なのだ。

 殺しの美術を追求する。それが私の目的なのだから……

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