第12話 捜査開始

 15時


 刑事が大田区を中心に散らばって聞き込みとともに厳重警戒態勢を取らせている状況だが、未だに情報は入ってきていない。

 捜査本部にずっといるのは辛いものである。


「本当は捜査に出たいのではないですか?警視殿?」


「ええそうですね……。しかし、私は警視という役職ですからね。本来はこういう場所で捜査の進展があった時に命令を出したりするのが仕事ですからね。現場に出て捜査するのはそもそも私の役割ではないですから」


「でも、赤宮事件に関しては捜査をしてもいいと言われてるじゃないですか?」


「まあ、上に頼み込みましたからね」


 ……そういえば聞いたことが無かったが、何故ここまで赤宮にこだわるのだろうか。


「月城警視、そういえば何で赤宮事件にはこんなにこだわるのですか?」


「そうですねぇ……それについてはまた今度でいいですかね。話すと長いですし、今話すことじゃないです」


 思いっきりはぐらかされた気がしてならない。それに今話すには長いってどれだけ長いのだ?

 捜査本部に有力情報が来ることなんてそうそうないのはわかりきっていることだ。

 なのだから話してくれてもいいのでは……。


「ならいつか話してくれるんですよね?」


「ええ、それについては約束しましょう。いつになるかはわかりませんけどね」


「なら気長に待ちますよ」


「気長に待つのもいいのですが、そろそろ連絡がきますね」


 そろそろ連絡がくる?どういうことだ?

 するとなんと、すぐに電話が鳴った。

 受話器を取って耳に当てると聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「もしもしぃ?捜査本部ですかぁ?」


「や、山中?」


「おお、月城警視が出るかと思ったのに黛が出るとはねぇ。まあいいや、月城警視に伝えといてくんなよ。神奈川県警が不審者を捉えたらしい。パンクな髪型した小太りの男だそうだぜぇ?なんでも赤宮のことを知っているとかいないとか?これから取り調べるそうだ。以上!」


「しかし、まさか山中警部が情報を持ってくるとは思わなかったな」


「おいおい、俺はやるときゃやんのよ。さて、捜査に戻るんでじゃぁな」


 ぷつっと電話が切れた。


「……突然切るなよあの野郎」


「なんでしたか?」


「あー、神奈川県警が不審者を捉えたらしいです。なんでも赤宮のことを知っているとか……」


「支援者の一人のようですね。……ふむ、警戒を強化させてください。赤宮自身が動くかもしれません」


 経験則なのか月城警視は無線を手にとって指示を出した。


「刑事諸君、警戒をさらに強化してください。赤宮が動くかもしれない。逃してはなりません!」


 無線を切った月城警視に疑問をぶつけた。


「なぜ、そう言い切れるのですか?」


「赤宮が移動するときは必ず支援者が影武者として立ち回り、警察を撹乱しようとしてきます。常に、最悪の事態に備えることが大事なのですよ。実際何度も逃げられていますからね」


 成る程、確かな経験からの予測というわけか。

 しかしなぜだろう?月城警視は徐々に赤宮を追い詰めている筈だ。なのに、奴の方が上手のような、そんな気がするのは……

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