第11話 捜査会議

 13時45分–警視庁内『血の芸術家』事件捜査本部


 捜査会議前でドタバタとしている捜査本部に境警部、矢田坂警部補、坂下警部補が揃ってやってきた。


「月城警視、お疲れ様です」


「お疲れ様です。どうです?何か掴めましたか?」


「はい……」


 月城警視、境警部らは小声で話し始めた。

 早めに来るようにと言うように言ったのは何か知るためなんだろうが、捜査会議で全体に報告ではダメな理由があるのだろうか?


「よお黛。お疲れさん」


「なんだよ、山中か」


 山中警部。

 僕と同期で36歳のたたき上げである……らしい。


「あの4人はなにを話してんだぃ?」


「赤宮を追跡してたからその報告じゃないか?」


「成る程ねぇ。流石は右腕だ」


「今は僕だ」


「妬いてるのかぁ」


「……後で道着きて道場来い!」


「悪い悪い。お前と柔道で勝負したら勝てるわけねぇもんなぁ。中高全国優勝してるわけだしねぇ」


「お前は僕が怪我で出れなかった大会で全国優勝したろ」


「それはお前がいなかったからだって。寝技に持ち込まれたら勝ち目ねぇもん。っておっと、そろそろ時間だ」


 山中警部は急いで席に着く。

 山中警部は口がうまい。そのため立てこもり事件などで重宝されている……らしい。

 なんせ僕はこの男が働いているところを見たことがない。

 常に暇そうに椅子に座っているのだ。

 奴のことなのでそういう風に見せているだけなのかもしれないが……。

 僕は月城警視の隣に座るとマイクのスイッチを入れた。


「14時になりましたので、これから捜査会議を始めます」





 捜査会議の進行役は僕がやることとなっている。

 捜査に携わる刑事を前から見渡す形になるのでよくわかるのだが、僕より年上の警部が半数以上いる。

 中にはしかめっ面でこちらを見ている刑事もいるので、感じが悪い。


「本日の事件に関しまして何か報告は?」


 手が上がったのは境警部からだった。

 先程警視に話していたことを報告してくれるのだろうか?


「境警部、どうぞ」


「赤宮が事件を起こした後の動きを探っていました。赤宮は事件後、検問が開始される前に車で大田区に逃走しました。途中で見失い、現在部下が捜査中です」


「本当に大田区だったのか?」


 ベテラン刑事が嫌味らしく言ってきた。


「はい、間違いありません。現在も刑事を配置していますのでそう簡単に逃げられないと思われます」


 坂下警部補が強い口調で言った。

 元々ドスの効いた声をしていて、顔も厳つい彼は普段優しい雰囲気の境警部とは正反対な人間だ。彼がいることで境警部が助かっている部分も大きいはずだ。


「……わかった」


 ベテラン刑事は押し黙って仕方なさそうに座った。


「他には?」


 誰からも手が上がらない。どうやらここまでの捜査で手がかりを掴んだのは境警部らだけのようだ。


「無いようですのでここからの捜査について月城警視から」


 警視はマイクを手に取ると今後の捜査方針について語り出した。


「検問は取りやめ、また、捜査範囲を大田区を中心として神奈川県警と連携して捜査します。境警部、神奈川県警に捜査協力を要請してください。その他の刑事は大田区で聞き込み、厳重警戒をしてください。では解散してください」


 捜査会議はものの20分で終了した。

 ここから僕と警視は基本的に捜査本部に残り、捜査の状況を把握し指示を出すことになる。


「やはり、報告が少なかったですね」


「赤宮が相手である以上は仕方がないですね。まあ、ここからでしょう」


 月城警視の目つきは少し鋭くなっていた。


「ここから追い詰めますよ。赤宮康介を」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る