第9話 昼食
正午
コンクリートめがけて投げつけ続けると刃が欠けると思い壁にダーツ盤を取り付けて練習していたらいつのまにか時間がたっていた。
「おっと、そろそろ昼食にしましょう」
「ああ、冷蔵庫から適当にとって食え。俺はいらねぇ」
ジョンソン山中はテレビを見ながら椅子の背もたれにもたれて力なく言った。
「アルコール中毒にでもなりましたか?」
「アルコール中毒になるほどヤワじゃねぇよ!腹一杯なだけだ」
「そりゃあれだけスパークリングワインと適当に先程からチーズやクラッカーをつまんでいれば腹もふくれるでしょう」
私は冷蔵庫からパスタを取り出すとキッチンに向かい鍋にお湯を沸かした。
「そういや、投げナイフはどうなんだ?」
「だいぶんマシになりましたよ。軌道を変えることもできるようになりましたのでね。難点は長時間使っていると指が痛くなることですかね。仕込んだ状態で殺る《やる》機会を待つのは辛いかもしれません」
「それで?そのナイフ、次の仕事で使う気か?」
「ええ。しかし、そうなると大量生産しなくてはならないかもしれないですが……できる限り使わない方向でいきたいですけどね。私の資金も無限にあるわけではないですから」
「そのワイヤーとリールは投げナイフ回収だけが目的じゃねぇわけだ。ったく!とことん残酷なこと考えやがるぜ。ま、そうでもなきゃ俺はお前に協力なんざしてないがな」
「ええ、知っていますよ。だからあなた方支援者の期待に応えている」
鍋の水が沸騰してぶくぶくと泡が立ち始めた。
私は塩をひとつまみ入れるとパスタを一人前袋から取り出して鍋に入れると、タイマーに5分をセットしてスタートを押した。
その間にフライパンにオリーブオイルをしいて唐辛子とベーコン、ピーマンを刻んで炒める。
「……ペペロンチーノか。お前好きだよなぁ」
「私の作る料理の中では失敗が一番ないのでね。こんな閉鎖空間です。美味いものでも食べてないとやってられません」
「いいじゃねぇかコンクリートむき出しの部屋。俺は気に入ってんだぜ?」
「そりゃ君が設計したからでしょう?」
「内装はテメェだろうが」
「それは当然」
「……うん?」
テレビのニュースを見て体を前に傾けじっと見入っている。
「どうしました?ジョンソン山中」
「警察がこの辺りの捜索を本格的に開始したとよ。警視庁捜査一課の殆どがこの捜査に参加するんだとよ」
「捜査責任者は月城才児ですか?」
「だろうな。アイツ以外いねぇだろ」
「それもそうですね」
ピピピとタイマーが鳴り、パスタが茹で上がったことを知らせた。
私はパスタをザルに取り出すと湯切りをしてパスタをフライパンに入れた。
パスタをオイルと絡ませると皿に盛りつけた。
出来は上々。味もいつも通り作ったのだから問題ないだろう。
フォークを取り出すと、中央のテーブルに持っていき、食べ始める。
唐辛子の辛味が効いていて美味い。
「ワインはいらねぇのかよ」
「こんな昼間から飲んでいては寝てしまうのでね」
「へっ、そういやぁ酒に弱いんだったな」
「あなたが強すぎるだけですよ。私は標準的です」
「お前が標準じゃ日本人は話にならねぇな」
「……この話、前の事件の後もしましたね」
「んなこと忘れた」
「……君は酒量を落とすことを考えるべきだな」
私はテレビを見た。
そこには月城才児が写っていた。
「……あなたとのこの関係、いつ終わるのでしょうね」
「あ?なんか言ったか?」
「なんでもありませんよ。ごちそうさまです」
私は席を立つとシンクで洗い物を始めた。
「ま、そんな事は考える必要ないですね……そう長くは続かないのだから……君と私の関係は」
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