第8話 裏の世界の武器職人
9時30分
テレビのニュースでは私の起こした事件についての特報ばかりになっていた。
有名になるのも大変なものだ。しばらくは私の事件で持ちきりだろうし、どこにも行けそうにない。
「相変わらずだなぁ。おい」
「まあ、仕方のないことですね」
『……現在、犯人の赤宮康介は逃走中。警察は過去最大規模の署員による検問や周辺地域での聞き込み行い、行方を追っています』
「警察方も必死じゃあねぇか。よっぽどてめぇの首が欲しいらしいな」
ジョンソン山中は新しくワインセラーから出してきたドンペリを開けて飲んでいた。
しかし全く顔色も変わっていない。まるで酔っていない。
「それはそうでしょう。3年も経つのに未だに捕まえられていないのですからね。警察としては面目丸つぶれというわけでしょう。……しかし、相変わらずの酒量ですね。酔うことを知らないのですか?あなたは」
「酔う?俺は酒ごときで酔ったこたぁねぇぜ?」
「では何なら酔うのですか?」
「船だな」
「案外可愛らしいところもあるのですね」
「うるせぇ!」
ジョンソン山中はワイングラスに注いだドンペリを一気に飲み干した。
「……ああ、そういやあのホネジジイ。例のものができたとか言って今日ここに来るらしいぜ」
一気飲みをして思い出したかのように言った。
「ほう?それはそれは。仕事の早い事ですね」
「そりゃあそうだがな。……俺はあの野郎が苦手なんだよ。気持ちが悪りぃし、なにより……」
「気持ちが悪くて悪かったな、ジョンソン山中。わしも貴様のことがいけすかんわい」
いつ入ってきたのか、やせ細った老人が出入り口に立っていた。
右手に持つ薄汚れたカバンには私の頼んでおいた武器が入っているのだろう。
「やあ、ミスターシガルト」
私は立ち上がり、シガルトと握手を交わした。
「頼んでいたものは?」
「ちゃんとできとるよ?ほれ、これじゃ」
シガルトが鞄から出したのは刃渡り約5㎝の小さなナイフ2本だった。ナイフの持ち手の先端にはワイヤーが付いている。それにしても持ち手が太いのが気になった。
「回収可能な投げナイフ。指にワイヤーを巻きつけて、投げつけると持ち手に仕込まれたリールが回転し、ワイヤーが伸びる。ワイヤーの長さは15メートルだ。リールは引きつけるようにするとワイヤーを回収しながら手元に戻ってくる。あとはおぬしの腕次第よ。そうだな。使い方次第じゃ、ナイフの軌道を変えることができるじゃろう。どうじゃ?」
私は手に持ってよく観察してみた。重さは200gほどのように感じる。重心は持ち手の方に偏っているが、練習すれば上手く当てられるだろう。
「しかし、お主の芸術にこんなものは必要ないのではないか?」
「いえ、そんなことはありません。これも必要なものです。更なる芸術の為には」
「お主が必要と言うならそうなのだろう。お主の芸術はワシにはわからんが……クライアントの依頼には応えるまでだ。金はまた貰いに来る。これが請求書だ」
請求書には手書きで34万円と書かれていた。
「ああ。今度来るときまでに用意しておこう」
「ではな。……ああそうだ。警察がだいぶこの辺りを嗅ぎ回っておる。お主の後をつけられていたのやもしれんな。まあ、気をつけることだ。お主にとって安全な場所などこの日本にないのだからな。……Goodluck《幸運を》Mr.赤宮」
そう言うと静かに秘密の場所から出て行った。
「あーあー気持ち悪ぃー!あのホネジジイまた痩せてやがる」
「あの人ももう70過ぎの年寄りですから仕方がありませんよ。あと、痩せた人を気持ち悪いと言うのはやめた方がいい」
「気持ち悪ぃもんはきもち悪ぃんだよ!」
ジョンソン山中はワイングラスに入れたドンペリをまたも一気飲みした。
「その短気な性格と一気飲みを辞めてくれれば更に頼り甲斐があるのですがねぇ?」
「言ってろ!」
私は投げナイフを持って壁に向かって投げつけた。
コンクリートの壁にあたりカランと音を立てた。
成る程。これは扱いやすく素晴らしい出来だ。ワイヤーを引きつけると勝手にリールが巻き取って手元に戻ってきた。取るときは少し危ないかもしれないが、まあ問題ないだろう。
私は少しニヤついた。
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