第6話 喫茶店

 30分程現場近くを歩き回りながら喫茶店を探した。このご時世だ。スマートフォンを使えばすぐに見つかるのに警視はスマートフォンも出さないし、僕がスマートフォンで調べようとしても止められた。

 まあ、警視が意味のないことをするとは思えないので従うことにした。


「ふむ。ここにしましょうか黛くん」


 警視が立ち止まった所にあったのは現場から1km程離れた人気のチェーン店だった。


「そうですね。ここのコーヒー安定して美味しいですから」


 現場の見える席で警視と向き合ってコーヒーを飲む。

 何年かの付き合いだが、こういったことは稀だった。


「それで月城警視殿?一体30分歩いてこの喫茶店まで来てこうして公務中にもかかわらずコーヒーを飲んでいるわけですが、どういうお考えで?」


 警視はコーヒーを一口飲むと現場の方を見ながら語り出した。


「私は3年間あの男を追ってきました。なので彼の行動原理はなんとなくわかります。彼はまだこの近くで潜伏している。……と思ったのですが、流石に彼もやり方を変えてきました。少し早く彼には逃げられたようです」


「ダメじゃないですか」


「ダメですね」


「開き直ってどうすんですか!」


「……私だって焦っているんですよ。3年間も殺人鬼を捕まえられないのですからね。いつ降格食らってもおかしくありません。彼につながる裏社会の人間達は逮捕しても当の本人を捕まえられないのでは意味がありません」


「……一つ気になるんですけど、どうして赤宮に協力する輩が多いんですかね?」


「彼の作品のファンがそれだけいるということですよ」


 警視はコーヒーを一気に飲み干すと失礼といいお手洗いに行ってしまった。

 僕は現場のマンションを見た。


「……わからないな。人殺すことのどこが芸術なんだか。それを支持する意味もわからない。なんだってそんなこと」


 僕は拳を握りしめて怒りに震えていた。

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