第4話 殺害現場

 8時20分


 殺害現場に到着した。

 超高級高層マンションの最上階の一室ということもあって眺めはいい。……もっとも、死体と窓に付着した大量の血がなければの話ではあるが。

 部屋は広いのだろうが、やたら悪趣味な家具と壁紙。まるでキャバクラやホストクラブのような内装にエレキギターやアンプ、ドラムが部屋を埋め尽くしていている。

 キッチンには冷蔵庫と小型のワインセラー、棚の中には高価そうな食器類が乱雑に並べられていた。どうやらこの被害者、あまり掃除は得意ではないらしい。


「なんともこの部屋には似つかわしくない。騒がしい内装ですね」


「でも、部屋にあるものは高級品ばかりですよ。やっぱ金稼いでるんすね。流石は若手敏腕社長ってところですか……」


「株式会社サーマニック。最近ネット業界で騒がれているという会社でしたか」


「ええ、主に通販とパソコン教室で稼いでいるみたいですよ。他にも色々やってるみたいですけど、僕はネットに詳しくないのでよくわかりませんけどね」


「黛くん、君がわからなければ私にもわからないですね。私はネット関係だけは苦手としていますから……」


「また嫌味っぽいこと言いますねぇ」


「それほどでもないですよ。……さて、被害者の事はもうわかりましたので、そろそろ犯人の捜索をしなければいけませんね」


「何度となく警察の追跡を振り切ってくれやがるあの赤宮ですから、検問なんかに引っかかっちゃくれませんよ?」


「でしょうね。追跡は他の刑事に任せましょう。黛警部、連絡しておいてください」


「わかりました」


 僕はすぐにスマートフォンを取り出すと赤宮の事件に関わる刑事に連絡を入れて、付近の捜索とパトカーでのパトロール。引っかかる可能性は低すぎるが、一応検問も設置させた。


「……ということで、よろしくお願いします」


「終わりましたか?」


「ええ。それでこれからどうします?」


「事情聴取は既に行ったようですし……そうですね。少し走りましょうか?」


「……は?はい?」


 月城警視はにこやかに笑うと、全速力で部屋から走り出した。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!……あーいきなり何なんだよもぉうー!」


 走って月城警視の後ろを追いかける。月城警視は短距離ならめちゃくちゃ速い。まるで背後が見えてこない。

 部屋から150m程の場所にあるエレベーターホールで何とか追いつく。


「きゅ、急に走らないでくださいよ!」


「少し走ると言ったでしょう?……あ、エレベーターが来ましたね。乗りますよ」


「えっ、ちょちょちょ!」


 エレベーターに乗り込むと月城警視は一階のボタンを押し、すぐさまドアを閉めた。


「ふむ、ここまでで約1分。エレベーターの位置によってはかなり時間が変わってきますね」


「一体何をしてるんですか?」


「殺害現場から入り口までどれだけの時間で行けるかですよ。もちろんその逆も然り」


「そういうことですか……。なるほど」


「実証実験ですので、何度もやりますよ。覚悟しておいてください」


「何回程やるんですか?」


「軽く5往復程です」


「成る程、それは疲れそうです」


「終わったら防犯カメラの確認をしますからそこまで頑張りましょう。黛警部」


「昼ごはん奢ってくれるとかなら頑張れましたけどね……」


「そうですか。もちろん奢りませんが。さ、走りますよ」


 チーンと音がするとエレベーターの扉が開く。そこからまた全速力で走り、そのまま入り口へ。


「1回目、かかった時間は3分45秒ですか。今回はエレベーターが来るのが早かったですからね。こんなものでしょう。さ、上に行きますよ」


「容赦ないっすね」


「それはどうも。さあ、行きますよ」


 慈悲はなかった……。

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