第2話 29人目
私は2台車を所有している。
1台は仕事用、もう1台はプライベート用だ。
どちらもフォルクスワーゲンの赤いアルテオン。ナンバープレートは違うがね。
私自身、表でも裏でもかなり有名になったもので、金の方はあまり困っていないのだ。
私は仕事用に乗り込むと作品の主役とも言える蒲田蓮也のすむ高級マンションへと向かった。
蒲田蓮也の住居であるこの高級マンションはかなり厳重なセキュリティーで守られている。
まず、マンション内に入るためには住民のみが知る5桁のパスワードを入力しなければならない。例え入れたとしてもマンション内に150個設置されている防犯カメラ、防犯設備は完璧で、しかも泊まり込みで警備員が警備している。
流石の私でもこの現場での仕事は厳しいと思ったが、色々と見てみると案外そうでもないことに気がついた。
何故なら私は既に指名手配されている身、それに、私の作る作品はみる者が見ればすぐに私のものとわかる。例え防犯カメラに映ったとしても問題ない。
要は警備員にだけ気をつけておけば良いだけだ。
こうなると難易度は極端に下がる。
警備員が巡回しない時間を見計らって事前に手に入れておいたこのマンションのパスワードでマンション内へと潜入し、素早く最上階まで向かうだけだ。
私はマンション近くの有料駐車場に車を止めると仕事道具の入っている鞄を取り出した。
少々暑いが、ジャケットの上からパーカーを着てフードで顔を隠す。
もし万が一住民と出会ってもバレないようにする策だ。
準備を終えた私は仕事現場の最上階に向かって歩き始めた。
マンションに入るとまず、入口にある大きなタッチパネルにパスワード38907を入力する。するとあっさりとドアのロックが外れた。
(厳重なセキュリティーを謳っている割に大したことはありませんね)
私はエレベーターに乗り込むと最上階のボタンを押した。
さて、ここからだ。
私はこうして潜入したわけだがここからどのように蒲田蓮也の部屋に入ると思う?
私が急に訪問してきてドアを開けてくるようなことはまずありえないだろう。
鍵はピッキングの難しいものがつけられている。となれば、自ら開けてもらうしかないだろう。
私はスマホで時間を確認する。
時刻は7時27分。
私の情報では蒲田はいつも7時30分に部屋を出る。ならば、そのタイミングで黙らせ、部屋の中に押し込めばいいだけだ。
エレベーターは最上階の60階へと到達した。
私は素早く蒲田の部屋の前までやって来ると時間を確認した。7時29分
ちょうど良い時間だ。
私はカバンからクロロホルムを染み込ませたハンカチを取り出した。
黙らせ、動かないようにさせるには眠らせるか気絶させなければならない。
即効性の麻酔などない。クロロホルムを染み込ませているのも保険でしかない。
本命はもう一つの道具、スタンガンだ。
ガチャ
玄関扉が開いた。瞬間、私は蒲田の口元にハンカチを押し当て、部屋の中に押し込むとスタンガンで気絶させた。
気絶した後もハンカチでクロロホルムは吸わせ続ける。
さて、これでしばらくはおとなしいだろう。
私は部屋を見渡す。かなり騒がしい部屋だ。派手好きとは聞いていたが、悪趣味な黄金の壁紙、高級そうではあるが龍の描かれた絨毯に真紅のソファ。テーブルはガラス製の高級品、山のようにつまれたグラス。シャンデリアのような照明。部屋の隅には音響装置が並べられており、エレキギターやベースが飾られている。
全く優雅でも煌びやかでもない。こんな高い部屋には全く似つかわしくない。とにかく高級品を取り揃えただけだ。
出社の格好がスーツに純金のネックレス。指にはゴツい指輪をはめて、黄金の腕時計をつけてまさに成金といった出立であるところを見ると、この男らしい部屋と言えるか。
私は重そうな二重カーテンを全開にした。
巨大なガラスの壁からはとても綺麗な都会の景色が眺められた。
これを利用しないではないだろう。
私は気絶した蒲田をガラスまで持って来ると服を脱がせてカバンから取り出したロープをハーネスのように体に巻きつけると、カーテンレールの上にロープの反対側を持ってきてさらにそこから天井から吊るされた電飾に巻きつかる。これで蒲田をガラス壁の真ん中あたりに吊るすことができた。
さて、ここまでやったらあとは簡単。
私はパーカーを脱ぐとナイフを取り出した。
海外から取り寄せた切れ味抜群のオーダーメイドのナイフだ。
「さあ、綺麗に吹き出してくださいね?私の作品の主役を張るのですから」
私は喉、手首、足首を切りつけた。勿論、動脈も静脈もすべて切り裂いた。
生暖かい血液が飛び散り、ガラスの壁は血で埋め尽くされた。
「ふむ。なかなかのコントラストだ。……しかし、私の最高傑作とまでは言えませんね。佳作といったところでしょうか?まあいい」
私はパーカーを再び着ると、部屋を後にした。
時刻は7時50分。
こんななりでも会社の社長というだけある、すぐに見つかることになるだろう。
「さて、今回はどなたが私の新作を一番に見ることになるのでしょうねぇ?」
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