30話「あの日の私たちを取り戻すように」
「――さて、何する?」
ゲームセンターは小さな頃に数回ぐらい行ったことがあるけど、相変わらず騒々しくてちょっと耳が痛いくらいだった。私が辺りのゲーム機を見回していると、
「2人でできるゲームがいいよねー」
せっかく2人で来ているのだから、やはり2人で一緒にできるゲームがいい。
煉と一緒に楽しみたい。
「だと、対戦系かな? じゃあ、アレとかどうよ?」
そう私が言うと、煉は指をさして私にそう訊いてくる。
「もぐらたたき? いいよー」
もらぐらたたきなら、私にもできそうだ。ゲーム自体は単純なものだし、これなら私でも煉に勝ててしまうかもしれない。そんなことを思いながら、私たちはそのゲームの場所へと向かっていく。
「――煉、私女の子なんだから、手加減してよね」
そしてゲームを始める準備をしている時、私は煉にそんなことを言ってみる。
「えっ、ちょっ、それズルいぞー」
そんな私の言葉に、煉は困っているようだった。煉は優しいから、そう言ったらホントに手加減してくれそうだし。でもたしか負けず嫌いなところもあるから、自分が負けるのは悔しい。だからどうしようかと、困っている。それが分かる顔をしていた。
「ふふ、冗談。ていうか、このゲームに男女差なんてないでしょ」
それに軽く笑いながら、煉にそう告げる。このゲームは男女とか関係なく、反射神経が大事なゲームだから、男女で有利不利なんてない。ただただ煉をちょっとおちょくってみたかっただけ。そんな困った顔が見たかっただけ。
「まあ、言われてみりゃそうか。んじゃ、本気で行くからな!」
逆にそれで煉の闘志に火がついたようで、女の子相手にそんな宣言をする。そんな会話をしているうちに、いよいよゲームが開始される。ルールは30秒間でただひたすらに、7個の穴から出てくるもぐらをハンマーで叩くだけ。その叩けた数で競い合う。そう煉が宣言したので、私も本気になってひたすらに出てくるもぐらを叩いていく。
「うわっ、これ結構つかれんなぁー……」
それから数秒ぐらいして、煉がそんな弱音を吐いてくる。これはイケるかも、なんて期待を胸に抱きつつ、負けじと私はちょっとスピードを上げていっぱいもぐらを叩いてく。後半はもぐらが同時に何匹も出てきて、優先順を頭の中で決めて叩いていくなんて、ちょっと頭も使いながらゲームを進めていった。
「え? マジ!?」
思いのほか、長く感じられた30秒が終わり、成績を見てみると煉はその結果に
「やったぁー! 私の勝ち!」
その結果に、私はちょっとはしたなく、童心に帰ったみたいに喜び勇んでいた。
「くっそー負けたぁーでも、結構差開いたよね、得意なの?」
それに対して、悔しそうにしている煉がそんな変な質問をしてくる。
「ふふ、もぐたたき得意って何?」
それがおかしくなって、笑いながらそんな返答をしてしまう。
「ハハ、たしかに――」
そんな笑い合いながら、私たちは続けて他のゲームも楽しんでいた。やっぱり負けず嫌いからか、煉から持ちかけてくるのは対戦ゲームばかりだった。私はあまりゲームはしない人だけれど、意外と力量の差はあまりなく、煉と五分五分と言ったところだった。だから私が勝ったり、また違うゲームでは煉が勝ったりと、でもとにかくそれはとても楽しい時間だった。ホントにこんな楽しい時間がいつまでも続けばいいのに、なんて心の中で思う私がいた。
「――あっ、これ……」
そんな感じでゲームをしながら歩き回っていると、クレーンゲームコーナーのところでふと、私が足を止める。目に入ったストラップのぬいぐるみがとても可愛くて、ほしいなぁなんて思ってしまった。でも私はクレーンゲームは得意じゃないので、なんかもどかしい気持ちに苛まれていた。
「ほしいの? 取ってやろっか?」
そんな私の思いを察してくれたのか、煉からそんなことを言ってくれる。
「え、いいの!?」
まさかホントに取ってくれるとは思っていなかったので、その煉の言葉に驚いてしまう。でも取ってくれるなら、すっごくほしい。私は前のめりになって、煉にそう訊く。
「まあ、確実にとはいえないけど、これだったらたぶん……」
そんなことを言いながら、お金を入れてクレーンゲームを始める。煉はクレーンゲームの正面や、時には横に回って位置を調整していく。そして機械の腕を、うまく頭の輪っかに入れてそのまま引っ掛けて、ものの見事に景品を取ってくれた。
「すっごーい! 一発じゃん!」
こういうのはお金がかかるって聞いてたから、一発で取ってしまった煉がすごくカッコよかった。そして煉は景品口からストラップを取り出し、私にくれる。煉からとってもらったストラップ。それがものすごくこのストラップに貴重価値を与える。だからそれを見ながら、私はこのストラップは大切にしようと心に誓った。
「よかったぁー」
「ふふ、ありがと、煉」
私はホッとしている煉に微笑み、お礼の言葉を述べる。それに対して、煉は恥ずかしいのか目を背けてしまっていた。ホント、褒められるとすぐ照れちゃうんだから。そんなところも愛おしくて、大好きだけど。
「――ねぇ煉、最後にフォトクラ撮ろうよ!」
色々と楽しみ、そろそろいい時間になってきたので、今日の記念にとそう私が提案する。
「え、恥ずかしいって」
それに照れくさそうにしながら、目を逸らしてそんなことを言ってくる煉。
「ふふ、いいからぁー」
そんな煉を無視して、私は手を引っ張ってむりやりにフォトクラの機械の場所まで連れて行く。どうせ男の子はこういうのは恥ずかしがるのはわかってた。それに煉だし、それは余計にだと思う。だから私が強引にでも連れて行く。今日はとても楽しかった。だからそれは形として残しておきたかった。携帯のカメラとかじゃなく、こういうこの場ならではの、フォトクラで。私はそんな意気込みで、カーテンを開けて中へと入っていく。そして私が操作をして、撮影の準備を始める。それに対して煉は何もせず、棒立ちだった。こういうところはたぶん、慣れていないんだろうな。そんなことがわかる、煉の姿がそこにはあった。一通り準備が完了し、いよいよ撮影が始まる。煉はプレビュー画面に写るのが嫌なのか、表情が固かった。そしてとりあえずポースを取らないとと、思ったのかピースサインをする。なので、私もそれに合わせて一緒にピースをしてみる。そんな感じで数枚を時間をあけて取っていく。そんな中、私はどうせ形に残すのだから、今日の勢いに任せて攻めてみようかなーなんて考え始める。
「――れ、れれ、煉。ああ、あの、さ」
でもそれをするのは、とても恥ずかしく勇気がいる。だから緊張してしまい、言葉の歯切れが悪くなってしまう。でも今日はとことんまで貪欲に。それが今日のテーマだから。私は自分を奮い立たせ、勇気を絞り出す。
「ん、どした?」
「う、動かないでね!」
煉にそう告げて、場の準備を整える。
「え、お、おう」
煉はその意図がわからないで、戸惑っているけれど、その指示には従ってくれて、前を見て静止する。こうなったら、後は私がアレをするだけ。だから私は目をつぶり、煉の肩に手を置いて唇を近づけていく。
「えっ、ちょっ!?」
そんな驚き、戸惑っているような煉の声は無視して、どんどんと近づけていく。早くしないと、撮影の時間が来てしまうので、なるべく急いで。そしてすんでのところで、それを止め、撮影されるのを待っていた。正直、私の体は震えていた。だってたぶん後ひと押しすれば、私の唇は煉の頬に触れてしまうのだから。ドキドキして、手も震えているかもしれない。たぶん顔も真っ赤になっているかも。
「――寸止めかよぉー……」
そして撮影する音が鳴り響き、私は目を開いて煉から離れていく。それに対して、煉はなんと驚くような衝撃的発言をして、落胆してしまう。
「えっ!?」
一瞬、頭の理解が追いつかなかったけど、その煉の言葉を頭の中で何度も反芻させてようやくその意味に気づく。するとみるみるうちに、私の体温が上昇していくのがわかった。心臓も高鳴りが抑えられないほどに、どんどんと上がっていく。
「あっ」
まさか口に出しているとは思っていなかった様子の煉は、言ってしまったと言わんばかりに口を開けて唖然としていた。
「あっ、えと……さっきのは気にしなくていいから」
そしてすぐさまそんなことを言って、必死にごまかそうとしていた。
「うっ、うん……」
私はもう煉と目を合わせることができず、俯いてしまう。だって煉がそう言ってきた、ということはもしかすると煉は……私のこと――
「んで、これはどういう……?」
「え!? えとー……で、デコって……」
そうだった。事の発端は、私が仕掛けた写真撮影からだったんだ。だからその機械でデコレーションをしていく。あの例の写真に、ハートマークで私の唇と、煉の頬が隠れるように設置する。こうすれば、私が煉にキスしているような画像の完成……というわけ。
「ああ、なるほど」
と納得したようだけど、すぐさま考え事を始めたあたり、混乱しているようだ。私もあまりにも勢いに任せすぎて、後のことを考えていなかった。煉がこの画像をどういう意図で作ったのか、気になるにきまっているんだから。
「……ねぇ、こ、これ……貼ってね?」
でも私にはそんなこと、どうでもよかった。さっきの煉の言葉で、ちょっぴり自信がついたのかもしれない。私はただ煉と関係を深めていきたい。ただそれだけ。だからさらに煉に攻めたお願いをしてみることにした。
「いやいやいや、これは流石にマズイでしょ!?」
そんなお願いに焦っている様子の煉。
「むぅ……」
私はそれに、煉の手を強く握り、口を尖らせて怒ったような素振りをみせる。言葉でなく、態度で反抗してみる。
「え、えっとー……」
そのまま黙ったまま煉の顔を見続ける。それに煉は困ったような顔をして、頭をかいている。
「別に、目立つところじゃなくてもいいから……お願い」
私はさらにひと押しと、ちょっと甘えるような感じで煉に再度お願いをする。上目遣いで、ちょっと声色も
「わかった。俺の部屋のどっかに貼っとく」
そんな私に折れてくれたようで、煉はそう約束を交わしてくれる。
「うん、よろしい。じゃあ、そろそろ帰ろっか」
そう言ってくれたのだから、煉のことを信じてることにした。きっとバレやすいところは避けて、もっとプライベートな空間に貼るだろうから、余計にこれは私たちだけの秘密となるわけだ。そう思うと、もうどうにも止まらないほど幸せに満ちあふれていた。でも、楽しい時間は刻一刻と終わりを迎えていた。私はそう言って、煉と共にフォトクラの機械から出る。そして私たちは2人で帰ることにした。
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帰りも、行きと同じようにバスで帰るので、バス停に着くころには辺りはすっかり暗くなっていた。そんな夜道を私は煉とともに歩いていた。でもそれは私たちのこの楽しい時間の終わりへと近づいているということ。一歩、また一歩と歩けば、煉との別れが同じようにやってくるわけだ。それが寂しくて、悲しくて、なんとなく離れたくない気持ちに駆られていた。
「煉、今日は楽しかったねー」
その道中、私はそう言って今日のことを振り返る。今日は煉の色々な一面も知れたし、色々と私たちの関係にも動きがあった。そう言った意味では、とても有意義な一日だったと思う。そして改めて、今日煉を遊びに誘ってよかったなと、しみじみと実感する。
「そうだねーテスト明けってのもあるんだろうけど、久々にパーッと出来たわ」
「うん……でも、なんか、さ……」
でもやはり煉と別れるのはどこか物悲しく、立ち止まって煉の手を強く握りしめてしまう。
「
そんな私を気遣ってくれたのか、煉はそんな言葉を投げかけてくれた。
「ッ!? そ、そうだね! また明日!」
そうだ。明日も私たちは会えるんだ。前向きに考えれば、明日も今日みたいな楽しい時間が待っているんだ。そう考えると、さっきまで感じていた寂しさも、明日への楽しみへと変化していく。その気持ちが抑えきれなくなって、顔や言葉にもそれが表れる。
「おう、じゃな!」
それから私たちは手を離して、互いに背を向けてそれぞれの家へと歩き始める。
今日は本当に最高に幸せで、楽しい1日だった。私は帰り道にスキップなんてしちゃうぐらい、テンションが上っていた。それほどまでに、私は今、幸せだった。もう今から明日が楽しみでしょうがなかった。なんか、遠足行く前日の子供みたいになってるけど、それだけ煉との時間が待ち遠しくてしょうがない。あぁ、早く明日が来ないかなぁー、なんて心の中で思いつつ、私は帰路へと着いた。
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