28話「煉と過ごす休日」
1月23日(日)
進級テストも終わり、先生たちには多忙の、生徒たちには待望の3連休がやってきた。おそらくみんなテストでたまりに溜まった
「はぁー……緊張するなぁー……」
私はそう言いながら、自分の胸に手を当てる。するとやはり、私の心臓の鼓動はものすごく早いビートを刻んでいた。煉と私服で、しかも2人きりでどこかへ行くなんてこと、今までになかったからやっぱりドキドキしてきてしまう。その相手が好きな人と言うこともあるけれど、まだそういうのに慣れていないからというのもあると思う。
「……よしっ!」
私は自分を奮いたたせるため、頬を軽く叩いて気合を入れる。でもそのまま緊張してばかりいちゃ、楽しめるはずものも楽しめなくなっちゃう。煉とのせっかくの楽しいひと時を共有するのだから、ちゃんと楽しまなきゃ。そうやって自分に言い聞かせ、自信に勇気を注入する。そうして私が煉を待っていると――
「――あっ、やっほー、煉!」
向こう側から煉がやってくるのがわかった。それに段々と嬉しくなってきて、大きく手を振ったりなんかして、煉を呼んでいた。当然それは『呼び捨て』で。この間に本人から許可をもらってから、2人きりの時は存分にそう呼んで、それを味わっていた。だから今日も、そう呼んで堪能させてもらう。
「ごめん、またせた?」
私が先に来ていたことを気にしてか、そんなことを訊いてくる煉。
「ううん、今来たところだから大丈夫だよ」
ホントは今日があまりにも楽しみすぎて、早く来すぎてしまっていた。だけれどそれを言うと、もちろん恥ずかしいというのもあるし、煉に余計な心配をかけてしまうので、私の内に留めておくことにした。せっかくの楽しい時間に、そんなそれの
「そっか、んで、今日はどうすんの?」
私はただ『どこか遊びに行こう』と約束をしただけなので、予定は決めてはいなかった。ただただ煉と2人きりの時間を堪能したかっただけなので、私の方も特に決まってはなかった。
「煉はどこか行きたい場所ある?」
「んー……あっ、だったら今日は
私のそんな質問に煉は少し考えて、そこからいい案でも思いついたと言わんばかりの顔で、そんなことを提案してくる。
「え!? そ、そう言われるとプレッシャーかかるなぁー」
ただでさえ私はまだこっちに越してきて1ヶ月ほどだというのに、そう言われてしまうと、その言葉がプレッシャーになる。もちろんその1ヶ月で色々とこの島のあちこちには行ったけれど、たぶんどれもこれも煉の知っている場所だろうし。
「うーん……あっ、じゃあ、カラオケいこうよ! ビル街のカラオケ屋さん、行ったことある?」
だからどこへ行こうか思い悩んでいると、ふと静ちゃんたちと行ったカラオケ屋さんのことを思い出す。あの頃はまだ私が転校してきたばかりで、親睦会みたいなノリで放課後に行ったことがあった。カラオケなら煉も楽しめるだろうし、それに盛り上がることもできるからいいと思い、そう煉に提案する。
「あーあそこね。俺も
その煉の合図と共に、私たちはまず
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それから私たちはバスに乗ってビル街へと向かい、そして最寄りのバス停を降りて、カラオケ屋さんへと着いていた。カウンターで受付を済ませて、私たちは指定された部屋へと入っていく。
「――煉、先に歌っていいよ」
個室に入り、適当な場所に隣同士で座る。煉が部屋のカラオケのリモコンを手にとって眺めていたので、私はそう言ってトップバッターを譲った。やっぱり初めての人とのカラオケは、どこか恥ずかしい思いがあった。それがやはり好きな人、となれば余計に。だから最初は煉に
「俺から? ヘタだよ……?」
でも煉も煉で、たぶん同じことを思っているみたいで、そんな理由をつけて遠慮をする。頬がちょっと赤いのが、その何よりの証拠。たぶん木下くんとかとなら平気で歌うんだろうけど、今日は相手が私という『女の子』だから、恥ずかしがっているのだろう。
「大丈夫だよ、2人だけなんだから」
私はそう後押しして、煉にトップバッターを勧める。
「じゃ、じゃあ……」
私の言葉で決意してくれたようで、リモコンを操作し始める。煉が選ぶ曲に、私はちょっと興味があった。煉がどんな曲が好きなのか、どういうジャンルの歌を歌うのか、それが知りたかったから。そして数秒して、曲のイントロが流れ始める。それは私も知っている曲で、決して流行りの歌……というわけではないけれど、人気のある歌手の歌う楽曲だった。煉はこういう歌が好きなんだ、と頭の中に記憶しつつ、その歌声を聞いていた。やっぱりさっきのあれは照れ隠しだったようだ。そんな聞き苦しいような歌声ではなく、むしろ上手な部類に入るぐらいだった。私はそんな煉の歌声に、手拍子をしながら聞いていた。
「――全然ヘタじゃないじゃん。むしろ上手だよ」
そして曲が終わり、私は拍手をしながら煉にそう言った。
「や、そんなことないって」
そんな私の褒め言葉に、どこか恥ずかしそうにして照れている煉だった。
「じゃあ、次は私歌うね」
そんな煉を可愛らしく思いつつ、今度は私がリモコンで入れていた曲が流れ始める。煉が最初に歌ってくれたことで、流れができて私はとても歌いやすかった。だから恥ずかしさなんて捨てて、私が歌いたい曲を歌うことにした。座った位置の関係から、私がモニターで歌詞を見ると、煉は死角になって見えない。だから今、煉がどんな風に思い、私の歌を聞いているのかが分からなかった。それがちょっと気になりつつも、私は歌い続けていた。
「岡崎って歌めっちゃうまいんだな!」
歌い終わると、煉は拍手をしながら目を輝かせ、テンション高めで私の歌を褒めてくれた。
「えっ!? そんなことないよ……」
好きな人にそんな褒め方をされて、さっきの煉みたく照れてしまう私がいた。しかも、その反応からみるに、自分で言うのもなんだけど、よっぽど感動したみたいだし。
「歌うの好きなの?」
「うん、好きかな?」
「へーでもこういう曲歌うって意外。Witch好きなの?」
「うん、よく聞くよーもしかしてその反応、煉も聞いてるクチ?」
もしかすると、煉との意外な共通点がみえてくるかもしれない。あきらかに今の反応はWitchを知っている人のそれだった。だから、私は心の中でちょっと期待しつつ、煉にそうやって訊いてみることにした。
「そうそう。『ファン』ってほどガチじゃないんだけどさ、ゲームの主題歌で知って、それから」
どうやら私の読みどおりで、煉もWitchを知ってくれているようだ。なんだろう、煉と一緒のアーティストが好きというのも嬉しいんだけれど、やっぱり私の好きなアーティストを好きになってくれる人がいると、ものすごくありがたい気持ちになる。
「あぁーあの曲ねー! アレいい曲だよねー」
「うん……ね、ねえ、じゃあさ、リ、リクエストとか、アリ?」
そんなWitchの話で盛り上がっているところに、煉はモジモジとしながら私にそんなお願いをしてくる。
「リクエスト!? 私で大丈夫?」
その煉のお願いに、私は不安で仕方がなかった。そんな人にリクエストされるほどの実力じゃないと思うし、煉の期待に答えられるかものすごく不安だった。
「むしろ、岡崎の歌が聞きたい」
そんな決心のつかない私に、そんなカッコいい顔でそんなセリフを言葉にする煉。
「う、うん、わかった。じゃあ、煉が言ってたやつでいい?」
ちょっと煉に口説かれているみたいで、ドキッとしてしまう私がいた。なので煉と目が合わせられず、私はリモコンばかりを直視していた。そしてさっき煉が言っていた、ゲームの主題歌を選んで送信する。
「うん、お願いします」
そんなプレッシャーに押されつつ、私は曲が始まるのを待っていた。そしてイントロが始まり、Aメロへと移っていく。相変わらず、席の関係で煉が今どうしているかは見えないので、リクエストされたこともあってか、余計に不安だった。煉の満足するような歌声になっていると、いいのだけれど。そう私はただただ願いつつ、曲を歌い上げていく。そしてその中で、私は今まで生きてきた中でこれほど長い4分間があっただろうか、と考える。やはり煉のことが気になっているからか、時間がなかなか思うようには進まない。でも煉の反応がちょっぴり怖くて、このまま終わらなければいいのに、なんて考えてしまう私もいた。だけれど、時は確かに流れていて、曲は次第に終わりへと着実に向かっていた。
「――いやぁー……いいなぁー……」
そしてようやく最後の大サビを歌いきり、なんとか歌い終わった。すると、煉は拍手をしながら、そんな感じてしみじみとそう呟いていた。そんな煉の反応が、逆に恥ずかしくて煉に軽く
「ありがと……」
「マジ、最高! いやー冗談抜きで録音したいぐらい最高だったよ。ぶっちゃけ原曲より好きかも」
煉はかなり興奮した様子で、私のことを褒めに褒めまくる。こんな煉、初めて見た。しかもそれが、私の歌でなんて。
「あぁーもうあんま褒めないで! 恥ずかしいぃ……つ、次! じゃあ、今度は私からリクエスト!」
私はもう色々と恥ずかしくて、沸騰しそうなぐらい体が熱かった。なので、今度はこっちの番と言わんばかりに、そう宣言をする。
「うぇ……!? マジか、まあいいけどさ――」
それから私と煉は互いに歌ってもらいたい曲を自分が決める、というリクエスト合戦が続いていた。そこで知れたことは、私と煉は音楽の趣味がどうやら合うようだ、ということ。なんか、離れていても私たちは音楽で繋がっていた……っていうわけじゃないけれど、やっぱり嬉しかった。そしてその趣味が近いということもあって、カラオケの方はかなり盛り上がったそれとなった。最高に楽しい時間で、時間が経つのも忘れて2人ともカラオケに夢中になっていた。
「――そろそろ、時間だね」
そして名残惜しいけれど、時間が来てしまった。
「そうだな。じゃあ、そろそろ出るか」
私たちはリモコンを片付けて、マイクを持って部屋を後にする。なんだかんだで、いっぱい曲を歌っていた。本当にその時間はとても楽しく、また機会があったら来たいな、なんて思っていた。
「ね、煉くん、これからどうする?」
お金を支払い、カラオケ屋さんを後にしたところで煉にそんなことを訊いてみる。
「んー……ちょっと早いけど昼飯にでもする?」
「あっ、じゃあさ、私行ってみたいところあるから、そこでもいい?」
この間、雑誌で取り上げられていたお店が気になっていた。せっかくの機会だし、そこへ行ってみようと思った。
「おう、いいよ。じゃ、案内して」
それに煉は快く受け入れてくたので、さっそく私たちはその目的のお店へと歩いていくのであった。
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