17話「運命の導き」

 夜の校舎前、れんに会うためとやってきたが、なんと驚くことにそこにはクラスメイト全員が勢揃いしていた。みんなノリがいいんだな、なんて思いつつ、例のあの人を探していた。けれど、その姿はどこにも見えなかった。


「ねえ、煉くんは?」


「ん? あぁ、あいつまだ来てねぇーんだよ。何してんだか……」


 木下きのしたくんにそう質問すると、そんな呆れた様子でそんな答えが返ってくる。一応、まだ時間にはなっていないけれど、ギリギリまで来ないところが何かズボラというか、マイペースというか。でもそれが煉らしい。それから私たちは、約束の時間になるまで煉を待つこととなった。ただ、やはりここは外なので、暖房があってもちょっと肌寒かった。気を紛らわせるために、しずかちゃんたちと雑談でもしている時、校門の方から見覚えのある人物がこちらへと向かってくる。


「煉くん、やっときたね」


 そんな事を言いながら、その煉の姿を見て、ホっとする私がいた。もしかしたらこのまま来ない可能性もなくはなかったから。煉なら、ありえそう。そしたら、それこそ私の来た意味が徒労に終わってしまう。


「おせぇーぞ、煉!」

「煉くん、久しぶりー」

「遅いわよ、秋山あきやまくん」


 それと同じように、木下くん、汐月しおつきさん、藤宮ふじみやさんも同じように言いたい事を煉に言っていた。


「なあ、まだ3分あんだけど……」


 場の空気的には煉が遅れてきたみたいになっているけど、まだ後、集合時間まで3分ある。煉的にはこれで時間にちょうどいい、もしくは少し早いぐらいの感覚なのだろう。


「5分前行動をちゃんとしなさいよ!」


 そんな煉に、優等生らしい真面目な言葉で軽く説教をする。


「ちなみに、みんな5分前には来てたぞ」


「はえーよ、5分前からここにいたのか!? 考えられん」


 その木下くんの補足に、やっぱり驚いた様子で怪訝けげんそうな顔をする。たぶんさっき私が想像した煉の感覚は、概ねあっているようだ。


「うし、みんな揃ったってことで早速始めるか! んじゃ、まず説明の方をするぞ――」


 全員揃ったことで、少し早いけれど、スタートとなった。さっそく木下くんが説明を始める。肝試しは至って普通のそれで、指定された教室へ行き、そこの黒板に2人の名前を書いてくるというもの。でもこれを男女で、しかも絶対に『手を繋いで』行わなければならないらしい。なんて主催者さんの私情が入ったルールだろうか。周り女の子たちもそれが分かっているようで、その説明をした時、みんなさげすむような目で木下くんを見つめていた。でもどうやら反対というわけではないようで、このルールの下で行われるようだ。でも案外、このルールは私にはいい影響を及ぼすかもしれない。煉とペアになれれば『手を繋いで』校内を歩けるのだから。ただし、そのペア決めはくじ引きで行われる。つまり、完全に運任せとなってしまうわけだ。せっかく来たんだし、ここまで来たら煉と一緒になりたい。そんなことを思いつつ、くじ引きの順番がくるのを待っていた。藤宮さんが持つ抽選箱から、みんなそれぞれがくじを引いていく。


「はい、次、岡崎さーん」


 このくじを引く順番は、委員長らしく出席番号順に引いていくという、なんとも規範的なやり方だった。私は『岡崎』なので、そう時間が経たないうちに順番が回ってくる。


「はーい」


 そして手を箱の中に入れ、目をつぶり、煉のことを思い描きながら紙を1枚手にする。でも、まだそれで決定というわけではなく、これにしようか別のにしようか迷っていた。これで全ての運命が決まってしまう。


「――よしっ!」


 私はいよいよ覚悟を決め、その手にした紙を引くことにした。もうなるようにしかならない。だったら、潔く決めてしまおう。その紙を箱からだして、それを開いてみる。すると、そこには『20番』と書いてあった。『煉、20番引いてね』なんて思いながら、私は残りの女子たちが引き終わるのを待っていた。そして女子が全員引き終わり、次にいよいよ男子の順番となるが、木下くんはやはり杜撰ずさんで、その場の近くにいた煉から引かせていた。


「――20番は誰だー?」


 いきなり煉だったので、私はその煉が引いてる姿を息を呑んで見守っていると、なんと煉は見に覚えのある番号を宣言した。これはもう運命なのだろうか、あるいは『Destino』が導いてくれたのだろうか。奇跡的にも、私と煉は同じ番号となった。


「私……よろしく……ね」


 でもそうなると、いよいよ『手を繋ぐ』ということが現実味を帯びてくる。そんなことを考えると、恥ずかしくなってきて、小さく手を挙げる私がいた。だって好きな人と、しかも夜の学園を、それも2人きりなんだから。緊張しない方がおかしいくらいだ。


「おっ、岡崎か、頼むな」


 対して煉はいつも通りで、手を挙げてそんな感じで言ってきた。それから同じ番号もの同士はペアとなるので、そのまま隣同士になる。そうなると、より一層緊張してきてしまう。なんか1人で乙女みたいになっている私であった。そんな中、私たちは他のみんながくじを引き終わるのを待っていた。


「――んじゃ、みんな引き終わったし、早速始めるか。じゃあ、まずはデモンストレーションとして男子1人で行ってくれ!」


 それからくじは引き終わり、ペアが全て決定し、木下くんの案内の下でまずクラスメイトの男子が1人で学園と入っていく。それから数分ごとのサイクルで次々と男女が入っていった。私は煉にうつつを抜かしていて気づかなかったけれど、そのみんなが学園へ入ったり出たりしたりしているのを見て思い出した。これからすることは、ものすごく怖いことなんだ。煉に気を取られていて、すっかり忘れていた。しかもそれを思い出してしまったが故に、急に恐怖心が再燃してきてしまう。


「岡崎、大丈夫か?」


 そんな私の様子に気がついたのか、待っている時に心配そうに優しく声をかけてくれる煉。


「むぅー大丈夫だよー!」


 そんな煉の配慮に、強がって怖いのを隠す私。ホントのことを言えば怖い。戻ってきた人たちは平気な顔をしているけど、私たちには何かあるかもしれないし。でもそれを正直に話すと、私を気遣って行くのを止めてしまうかもしれない。それはもっと嫌だった。だから私は我慢することにした。今は恐怖よりも恋心を優先したかった。


「ならいいけど」


 煉はそれで納得してくれたようで、それからは特にそれを言及してくることはなかった。それからしばらく経って、ついに私たちの順番が来てしまった。やはりいざ自分の順番が回ってくると、冬だと言うのに冷や汗が出てきた。お願いします、何にも出ませんように!


「んじゃ、次お前らだな、手繋いでくれ」


 そんな不安に駆られている私をよそに、木下くんはそう言って私たちに準備を促す。すると、煉が躊躇ためらいもなく握ってきた。いきなり、というのもあったし、不安になっていたこともあって握られた瞬間にビクッと驚いてしまった。そういえば、手を握られるのってあのクリパ以来だ。あの時は走っていて、まともに感覚を味わえなかったけど、今回は味わいたい。味わえるといいな。なんて、ちょっと変なことを考えつつ、私は意を決して学園の中へと入っていくのであった。

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