2話「初登校」
2077年12月16日(木)
いよいよこの日がやってきた。今日から私は『
「――じゃあ、いってきます!」
全ての準備が終わり、私は玄関先で見送ってくれるお母さんにそう挨拶をする。
「うん、頑張ってね」
それに軽く頷き、いよいよ家の扉を開け、学園へと出発した。転校生ということで、今日は早めに登校することとなっている。だからか、周りにはさほど聖皇学園の生徒はいなかった。学園までの道のりは地図で確認した程度なので、ちゃんと行けるのか不安なところもあった。10年前に住んでいたとはいえ、殆どその記憶はない。だからその通学路もなかなか新鮮なものであった。辺りの島の風景を見ながら、並木道へと差し掛かる。
「うわぁーすごーい!」
冬なので、葉っぱは枯れていたけれど、その光景は圧巻だった。木々がずらーっと等間隔に奥の方まで並んでいた。その木も人の何倍も高く、見上げるほどのそれだった。これが何の木なのかはわからないけれど、葉が色づく秋や春なんかはもっとキレイなんだろうな。それが今からちょっと楽しみだ。そんな並木道にテンションが上がりつつ、私はその中を通って学園へと向かった。
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なんとか無事に学園へと到着し、中へと入っていく。やはり学校が違うと、中も違うようで、しかもまだ一回も来たことがないので、迷うかもしれないという心配があった。とりあえず階段を見つけて、私は2階へと向かっていく。聞いた話だと、職員室がそこにあるらしい。まずは担任の先生に会って、そこから直接教室に行き、朝会で紹介されるという段取りだ。初めての環境に、少し緊張しながらも、私は職員室へと辿り着く。扉をノックして、それから開けようとしたのだが――
「あれっ?」
開かなかった。ガラスから中を覗いてみると、普通に先生方はいらっしゃる。それなのにも関わらず、開かないことにわけが分からず、ただただ戸惑うしかなかった。しかも、その行為に先生方の視線を一気に集めてしまった。なんか恥ずかしい気分に、焦りも増してくる。そんな折、私が転校生だと分かったのか、教室内から1人の女性の先生がこちらの方へとやってくる。
「あなた、
こちらかではよくわからなかったが、何か動作をしてから先生は扉を開け、そう言ってくる。
「あっ、はい、そうです」
「ああ、ごめんなさないね。ここの学園はセキュリティで扉にはロックがかかっているのよ」
「あっ、そうだったんですか。でも……セキュリティって普通、指紋認証とかじゃ――」
私の学校でも不審者が不法侵入してこないために、セキュリティシステムが設けられていた。でも、私のところでは『指紋認証』で扉の取っ手部分に触れれば自動的に認識されるシステムだった。だからもしセキュリティがあるとしたら、事前に指紋等をとらないといけないし、それがなかったから、てっきりセキュリティはないものだと思いこんでいた。それに、校門も生徒玄関も普通に何もなく入れたから、余計にそう勘違いする要因となっていた。
「あぁー……ここは古いセキュリティだからねー……パスワードを直接入力するか、教員室の場合は生徒手帳のICをそこの装置にかざさないとダメなのよ」
バツが悪そうに、この学園のセキュリティを説明してくれる先生。離島だからなのか、はたまた田舎だからなのか、そのセキュリティは何十年前のものなんだろうとツッコミたくなるようなそれだった。
「あーそうだったんですかー」
「そう、この生徒手帳を先に渡しておけばよかったわね。はい、これで教員室は入れるわ」
「はい、ありがとうございます!」
そう言って、私は先生から生徒手帳を受け取る。
「ちなみに、あなたたちの教室は専用のカードがあるから、それも後で渡すから。じゃあ、立ち話もなんだから、中へ入って」
その先生の言葉で、私は職員室へとお決まりの言葉を言って入っていく。そして先生の机らしきところに着いたところで、先生がそこに座り、私の方へと向き直る。
「では改めて、私があなたのクラスの担任の
「初めまして、岡崎
先生の自己紹介の後、軽くお辞儀をして、私も自己紹介をする。
「はい、よろしくね。まだまだ不慣れでしょうから、わからないことがあったら遠慮せずに聞いてね!」
明るそうな口調で、にっこりと微笑み、そう言ってくれる先生。なんか、話しかけやすそうな先生でよかった。先生が厳しそうな人だと、色々と苦労しそうだし。学園でわからないことも、気安く訊けそうな感じだ。
「はい、よろしくお願いします!」
「――なんでも岡崎さん、元々はこの島出身なんですってね」
それから今日の事や、学園に関する説明を一通り受け終わった後、そんな話を投げかけてくる。
「ええ、そうなんです」
「しかも、あの
「え、あ、はい……」
『あの』という言葉に少々引っかかる。私が10年いない間に『悪い子』になってないといいけど。お母さんも言っていたけれど、10年もあれば人は変わる。だから、今の煉がどうなっているのかは全くわからない。そんなことを思うと、ちょっと緊張してきてしまう私がいた。
「なんかロマンチックねぇー……離れ離れだった2人が再会するなんて」
先生は目をキラキラさせながら、ちょっと乙女っぽい顔をして私たちの再会を表していた。
「そ、そんなことないですよー……」
事情が事情だけに、先生のその反応に私はちょっと困っていた。たぶんそんなロマンチックなものにはならないと思う。想像したくはないけれど、もっと酷く、悲しい再会になるかもしれないから。
「ああ、そうだ。これはここだけの話なんだけど、岡崎さんの席、彼の隣にしておいたから」
そんなことを思っていると、先生は耳打ちをするように手を口元に当て、小声でそんな思いっきり公私混同している発言をしてきた。
「えっ!?」
そんな予想だにしない発言に、ただただ驚くしかない私だった。まさか煉と隣の席になれるなんて思いもしなかったから。たしかに隣の方が話しやすいし、色々な情報も入ってくると思う。でも、こんなこと先生がしてもいいのだろうか。
「これも運命の巡り合わせなのかしらね。あの子の隣、インフルで欠席しているのよ。だからそのままあなたが隣になっちゃいなさい。これは私とあなただけの秘密だからね!」
「でも、その隣の席の人は?」
「大丈夫よ。その子は本来あなたの席になるはずだった場所に移動させておくから」
「いいんですか、そんなことまでしてもらっちゃって」
その本来の隣の席の人を差し置いてまで、私を隣にしてしまうなんて、なんか申し訳なくなってしまう。それに、その理由だって完全な私情でしかないのだから。それこそ、私の心の中のわがままを聞いてもらちゃったって感じだ。
「いいのよ。生徒の座席なんて所詮、『問題さえ起こさなければ』どこでもいいのだから」
「なんか、ありがとうございます」
「それに、親御さんから彼に関する事情は伺っているから。なにかと隣の方がいいでしょ?」
「ホント、何から何までありがとうございます」
こんな計らいをしてくれる先生には、ホント感謝しかなかった。
「ただし、問題は起こさないでねぇー?」
念のためなのか、先生はわざとらしくそう言って、私に釘を刺す。
「そんなこと、しないですって」
それに私は軽く笑いながら、そんな返答をする。
「なら、よろしい。でも、こんなことを訊くのは野暮かもしれないけど、覚悟はできてるの?」
「え?」
「アイツはあなたのこと、何も覚えてはいないのよ? 大丈夫?」
もう数分もしないうちに煉と会うというこのタイミングで、先生はプレッシャーをかけてくる。
「はい、覚悟は出来ているつもりです」
昨日、何度も何度も頭の中でシミュレーションして、その痛みに慣れるように練習したんだ。だから、大丈夫。きっとその痛みにも耐えられるはず。私はそう信じたい。
「そういうの、経験したことがない私が言うのも何だけど、きっとあなたが想像している以上に辛いと思うわよ」
「……頑張ります!」
私がそう決意を固めた時、まるで空気を読むかのように、予冷のベルが鳴り渡る。
「うん。さあ、そろそろ行きましょうか」
「はい!」
先生の合図と共に、私は先生に連れられて教室へと向かうこととなった。さあ、いよいよ運命の時間がやってくる。そのことを考えると、緊張して胸がドキドキしている。教室までの道中、何度も軽く深呼吸をしながら、心を落ち着かせる。昨日頭の中でしたシミュレーションを思い起こして、イメージトレーニグをする。頑張ろう。何事も初めが肝心なのだから。そんな決意を胸に、私は教室へと歩みを進めた。
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