第34話 茜の過去、その3

魔人と戦う少年、いや!大樹寺だいじゅうじ げんは戦いながら周りを見ていた。



「本当にここはどこなんだ?見慣れない建物ばかりだ!」



そして、周りの逃げ惑う人々にも目が行くと更に驚く。

獣の姿をした獣人や耳をとがらせたエルフの様な人、はたまた見慣れない服を着た人。そんな人々が入り混じり逃げ惑う。



「本当にどこなんだ?」


「グゥガアアアアアア!」



魔人は先程よりも更に強い力を弦にぶつけて来た。



「ドッガアアア!」


「クウッ!」



魔人の攻撃は更に増す!口から吐く炎はまるで赤いレザーが太くなったかのようなものが弦を襲う。

必死に両腕をクロスさせて、魔人の攻撃を凌ぐ。が、魔人は更に背中の羽を広げると



「ブゥワアアアー!」



羽ばたかせた。その姿はまるでカブトムシが羽を羽ばたかせているようだ。

その風は凄まじく、周りの建物が跡形もなく吹き飛ぶ程。



「バリバリバリ!ドォー!」



逃げ惑う人々も、魔人が作り出した凄ましい突風に吹き飛ばされる。



「キャアー!」

「ワアアー!」

「た、たすけてー!」

「おかあさーん!」



叫ぶ人々に弦はクロスした両手の拳をギュッと握ると



「!‥こ、この野郎!」



弦は魔人を睨みつけ、この突風とレザーの様な攻撃を受けながら一歩また一歩と魔人に向かっていった。




◇◇◇




そのころ、レッドドラゴンチームは漸く、ナンキヨウの現場の上空に到達した。

そして、コクピット内のモニターに映し出された映像を見て驚愕した。

そこに映し出されたものは、跡形もない建物の跡や建物に押しつぶされた人々、突風て飛ばされて何かに串刺しになった人々、そして‥子供までもが犠牲に‥。

その光景は目を覆いたくなるほど。

実際、その映像を見た女神候補生の何人かは映像から目をそらした。アマネイルもその一人だった。



『な、なんなの‥‥‥酷い‥‥ウッ‥」



下を向きながら呟くアマネイル。しかし余りの悲惨な光景に見慣れないアマネイルは気分が悪くなりはきそうになる。

そんな中レッドドラゴンチームのチーフ、メリルは直ぐに指示をだした。



「エルゼ!ギルシェ!【リンク】して私について来い!」


「「はい!」」


「アマネイルも一緒来い!逃げ遅れた人々の避難を頼む!」


「‥‥‥はい‥」



リンクした三人とアマネイルは二機のホワイトスワローに乗り込み、地上へと降りた。




◇◇◇





「たっく!こいつさっきよりも強くなってないか?」



魔人の攻撃をうけながらそう感じた弦。

確かに魔人の攻撃、動きがこの世界に来る前より遥かに強く、早くなっている。

ただ弦は何故魔人こいつがこんなにも強力になったかはわからないでいた。

そして弦にもある変化が起きていた。



「なんだか、体の奥底から熱いのが込み上げてくる様な‥‥‥熱‥なのか?いや?なんなんだ?この感じは」



弦は自分に起きていた体の変化に、魔人との戦いの中で少なからず気づいていた。

あの魔人が出した、強力な攻撃、突風を凌いでいる自分に。




「あれだけの攻撃を防ぐことが出来る。俺は一体どうなっちまったんだ!」




そう弦が思っていた時、弦の前に空から突然三つの人影が現れた。そしてエルゼ=マフィンが弦の前に立つと、弦に背中を見せながら



「あなたは下がっていてください!」


「えっ!‥‥‥あんたらはいったい?」


「いいから早く下がって!」


「あ、ああ」



弦の前に立つ三人に弦は驚いた。そしてエルゼの言葉通りにゆっくりと下がり始めた弦。

そんな弦は下がりながら三人の後ろ姿を見て思った。



「‥‥‥巫女?」



三人が来ていた服は確かに見た目は赤白の巫女の衣装。しかし袴の丈が短すぎる。丈が膝までしかない。上の服もなんだか軽そうな感じがする。

そして弦がそう思いながら見ていると、ギルシェが



「私から行きます、フウー‥‥‥ストーン・アロー!」



ギルシェが一つ深呼吸をすると、地面に両手を着き叫ぶ。すると突然地面から直径1メートルほどの岩石が10個、空中に浮かんでくる。その岩石はみるみる、まるで鋭い矢の様な形になり、魔人目掛けて物凄いスピードで飛んで行く。




「ビューーーン!‥‥‥ドオーン!」




その岩の様な矢は次々に魔人に当たると、周りに砂埃が立ち込める。




「やった‥‥‥か?‥‥あっ!」




砂煙が少し治り、魔人を見たギルシェは驚いた。自分の魔法が魔人に当たったのに魔人の体は無傷だった事に。

が、少しはダメージはあるのか、苦しむ魔人。




「ガアッ!ガアアア!」



そんな魔人を見て、エルゼ=マフィンが両手の平を広げ、魔人に向けると叫ぶ。




「ウォーターアロー!。サンダーストーム!」




左手からは水の矢が、右手からはカミナリが魔人目掛けて飛んで行く。



「ズババババ!バリバリバリ!」



魔人に水の矢が刺さると、水の矢は弾け魔人の全身を濡らす。そして次に大地をも割る勢いのカミナリが魔人に当たる。

カミナリが当たった魔人の全身を濡らした水が一気に蒸発し、次の瞬間




「ジュッ!‥‥‥ドカーン!」




爆発を起こし、白い水蒸気の煙が魔人を覆い隠す。




「今度こそやった‥‥‥えっ!嘘!」




水蒸気の煙から現れた魔人の全身は爆発により焦げた様な傷はあったが、ほぼかすり傷の様なもの。

それを見たエルゼは驚く。




「あれだけの爆発でかすり傷程度なんて!」




エルゼが驚くのも無理はない。この魔法で魔人、魔物を今まで弱らせる事が出来たのだから。

それに、ギルシェとエルゼはすべての魔法を使う事が出来る。(水、地、雷、風、などの魔法)

そのうえこんな華奢きゃしゃな体なのにエルゼの魔法力はギルシェよりも上。

そんなエルゼの魔法の攻撃が効かない。

しかし今は引き下がれない。

ギルシェとエルゼは魔人に向かって攻撃をし続けるが、やはりかすり傷程度しかおわす事が出来ない。




「この魔人の魔法力は今までとは桁違いだわ!メリルチーフ!」




焦るエルゼはメリルの方を向くと叫んだ。

そんなメリルは魔人の方を最初は見ていたが、




「あいつはいったい何者?あれだけの魔法力を持った魔人の攻撃をリンクもしないで凌いでいた‥‥‥」




メリルは目の前の魔人が自分と同等の魔法力を持っているか、いや、それ以上の魔法力を持った魔人の攻撃を受け止めていた、見慣れない服を着た大樹寺 弦を見ながら、メリルはそう思っていた。



























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