第6話 男の目

空の円状の模様の輪から出て来た光る物体は、何人かの人を押し潰した。

辺りは逃げ惑う人達と‥‥押し潰された時に飛び散った血。そして僕らの前にも‥‥


「お‥お‥お兄‥お兄ちゃん‥いや‥‥いやあ!‥いやあーーーーあ!」


「舞!見るなあ!」


飛び散った血と一緒に、僕らの前に転がって来た。誰かの右腕が‥‥。

舞は抱きしめた神の中で涙を流して震え、泣いていた。

恐怖‥恐怖‥恐怖‥、その言葉だけが舞を支配している様だった。

神もまた目の前の恐怖に体が震えていた。

映画やドラマ、アニメなんかでは何度も人が死ぬシーンや人の一部がちぎれ飛ぶシーンは見ていた。が、いざ、自分の目の前で起きると、動けない。言葉が出ない。恐怖が襲いかかる。次は自分がなるのではないかと言う恐怖が。


けど‥‥‥


「舞を護らないと!」


その言葉だけが神を恐怖から震え起こさせた。そして、


「‥店長、俺に捕まって下さい」


「あ、ああ」


店長は腰が抜けたのか、這いずりながら神に近付くと神の服を持った。


「いきます!」


「えっ?」


店長が驚くと同時に神は力を超能力を使った。両手からあの円状の模様の輪をだして、テレポーテーションを。

その場からフゥッと消えた三人は、少し離れた小高い丘の上に居た。そこにはあの光る物体から逃げて来た人が何人か居た。

この場所はレース場が一望出来る丘だ。しかし、今回は‥‥‥、


「ちくしょう! なんなんだよあれは!」


神は空いていた左手に拳を作ると地面に叩きつけた。舞もあの光る物体から逃げれたのか、安心したのか、神を見て


「‥‥お兄ちゃん‥ありがとう。けど‥大丈夫?力を使って?」


「うん?、ああ、大丈夫だよ」


「神‥」


「何ですか?店長」


「ありがとう」


店長が礼を言ってきた。店長には神の力の事は言ってあるが、実際目の当たりにすると、少し驚いていた。


「神‥いったいあれは?」


「わかりません俺にも。ただ‥」


「ただ?」


「ええ、ただあの空に出来た円状の模様の輪が、俺が力を使う時に出る輪と同じ物なんです」


神が店長に言うと、店長は驚いていたが、


「あの輪がお前と同じ物でも、俺はお前に助けてもらったんだ」


店長は神の肩をポンと叩くと眼下に見えるレース場の方を見た。あの光る物体がある場所を。


『俺の力が人を助けた?俺はこの力は人を怯えさせ、怖がらせる力だと思っていた。だから人前では使わなかった。けど‥‥‥』


神の心の中で何かが芽生えそうな感情が湧き上がって来た


『助けたい‥人を助けたい!』


神はゆっくりと顔を上げると、レース場の方を見た。そして舞の頭を優しくポンと起きなでると、ゆっくりと立ち上がり、


「舞、ここで待っていてくれないか?」


「えっ? ‥‥お兄ちゃん?」


「店長! 舞の事お願いします!」


店長を見て言った。その神の真剣な表情の目を見た店長は思った。

店長は神の今の表情の目を何人も見て来た事を思い出し、


「舞の事は任せろ! お前はお前のしたい事をしてこい!」


「ハイ!」


そして神はまたスウッ!と姿が消えた。あの場所に‥‥光る物体が居る場所にテレポーテーションをした。


「‥‥お兄ちゃん‥」


「大丈夫だよ。あの目は必ず勝って戻って来る男の目だ!」


そう、店長はレース前に何人ものあの目を見て来た。そして必ず勝って優勝して戻って来た。だから確信していた。


ー大丈夫だとー。



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