第22話
次の日の朝、私は三人の内で一番早く起きた。あの後、二人がどうやって眠りについたのかはわからないが、ちゃんと布団に収まっていた。
とりあえず、まだぼんやりとした頭を起こすため、洗面所へ向かう。
水を流し、手ですくって顔に運ぶ。滴る水の感触と冷たさが、意識を覚醒させる。
ふと、目の前にあった鏡を見てギョッとした。
「嘘でしょ…」
その目はウサギのように、真っ赤になっていた。
なんとかなるわわけでもないのに、荒く顔を洗うが、当然、すぐに取れる訳でもなく…。
「はぁ…。どうしよ…」
「水月っち、おはよぉー」
「おは…」
あ……。
つい挨拶に反応して、智ちゃんの方を向いたところを慌てて、両手で顔を覆う。
「いや、遅いから」
ですよね!
「で、どうしたの?」
「うん……なんか、よくわからないんだけどさ」
智ちゃんは、私の隣に立つと、もう一つの洗面台を使って顔を洗い出す。
「好き…、って言われたことが、嘘ってわかったら、なんか、胸が締め付けられるような感覚になって…」
「そっか…」
タオルで顔を拭いながら、そう答える。
少しの間があったのは、気遣いなのか、次の言葉を探しているのか…。
そして、先に沈黙に耐えられなかったのは私の方だった。
「智ちゃんって、すごいよね」
「ん、何が?」
「なんか、ちゃんと恋してるぅーっ!って感じがしててさ、私は自分のことなのに、恋愛とかわかんなくてさ…なんか、曖昧っていうか…」
「ふーん、そう思うんだ」
どういう意味なのだろうか、まるで智ちゃんからは違う風に見えてるみたいな…。
その答えは待たずして、聞くことができた。
「別に、気になる異性がいるって段階で、「この人のことが好き!」って割り切る必要なんてないし、むしろそれは安直だと思う。好きと思えないんだったらそれでも良いと思う。恋愛は義務じゃないんだしさ、もっと気楽にいこうよ」
なるほどね…。無理に考える必要なんてないんだ。私、好きかそうじゃないかに囚われ過ぎていたかもしれないなぁ…。
そう思うと、少し胸の締め付けが緩くなったような気がした。
そうだよ、誰からだって「好き」って言われたら考えてしまうけど、私の気持ちだってあるわけだし、うん、そうだね!
「でーもっ!」
納得したところで、智ちゃんが水を差してきた。
「私は、水月っちはもうそういう段階は過ぎてると思ってた、「黒瀬のことが好き」だって自覚してると思ってた」
先ほどの返事の違和感はこれか…。そう言われると、一つ前のセリフが霞んでしまう…。
清水寺で黒瀬くんを探しに行った時の事が思い出された。
白河くんは、黒瀬くんの事を「心を過去にある」と言ってた。そして、「今に連れ戻せるのは、私だけ」とも。
私は、ほぼ即決で連れ戻す事を決意したけど、具体的に何をすれば良いのか…。それは、私が黒瀬くんを好きなのかどうかに、関係してくる事なのかな…?
そもそも、白河くんの意図が読めないよ…。はぁ…。
「あ!でも、気にしないでね!別に責めてるわけじゃないからっ!!」
しばらく黙っていたせいか、気を使われてしまった…。
「うん、ありがとう。智ちゃんもしっかりね!」
胸の前で両手の拳をしっかり握り、応援の意思を伝える。
「う、うん!頑張るっ!」
少し戸惑いながらも、それに応じるかのように同じポーズをとり、意思を示す。
「でも、目が赤いのは仕方ないかなぁ…」
「あぁー!忘れてたぁー!!」
考え事ばかりで、うっかり目の前にある問題を忘れかけ、再び引き出される。
「大丈夫大丈夫!水月っちが忘れても、その赤い目はちゃんとついてくるから!」
一体なんのつもりの冗談なんですかねぇ?
「セットみたいに言わないでくれるかな…?」
憤りを抑えながら笑顔を取り繕う。
私は、これが智ちゃんには一番効果的だと知っている。
「いや…だって…できたものは仕方ないし…」
「私だって、好きでつけたものじゃなくってよぉ〜?」
ヤバい、お嬢様語はこういう智ちゃんを見てると癖になりそう…。
対する智ちゃんにとっても相当効果てきめんだそうで。
「はぎゃぁぁぁ!ごみぇんなしゃぁぁぁいぃぃぃ!!」
そんなに私インパクトあるのか…。そのリアクションされると、逆に自分で引いてしまうのだけれど…。「黒瀬くんと仲良くして欲しい!」って言って喧嘩した時とは大違いだ。
怒る度合いの真面目加減が違うので、真剣に怒る時にこうやってお嬢様言葉じゃなくなるのは、まさしく隔靴掻痒というものだ…。
その後、怜ちゃんを起こし、朝食をとった後、とりあえずの集合場所である京都駅に向かった。
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