第21話
ホテルに着き、バイキング形式の夕食、入浴を済ませ、消灯時間となった。
クラスの枠を超えて各自で自由にメンバーを決めて良いという方針なので、文句無しで私と智ちゃんと怜ちゃんとなる。
一旦は見回りに来る先生をやり過ごし、布団から上半身を出して恋バナに花を咲かせる。
「で、どう?晴翔くんとは、うまくできてる?」
怜ちゃんが興味津々に聞く。
「どうだろう…私、上手くやれてるのかなぁ…」
「水月はどう思う?」
「うーん、なんか、すごく仲が良い友達、って感じかな…」
「あ!それ分かるー!」
「えー!どういう事〜!?」
智ちゃんが枕に顔を埋めて、悔しそうに足をばたつかせる。
この様子だと、疑問系でもどういう事かはわかってるんだろうなぁ…。私は苦笑いしか返せないけど…。
苦笑いは怜ちゃんも同じだった。
「もう私は良いでしょー!二人のも聞きたいー!」
「そういえば水月、バスに戻る時黒瀬くんと手、繋いでたよねー?」
「あっ!ずるーい!」
「確かに〜!キ・ニ・ナ・ル!」
口を尖らせ、下顎を前に突き出しながらの言い方は、挑発としては満点だし、言われた瞬間に私の番という引導を渡したのだから、ほんとにずるい。
おかげで、智ちゃんも便乗するし…。
「ねぇねぇ!どうなの!?」
智ちゃんったら、自分の番が終わったからって、もう…。でも、私も同じ事してたもんね。自業自得かな。そこでニヤニヤしてる怜ちゃんを除いては…。
「私は…」
「「うんうん」」
「…気になっては……いると…思う…」
「「きやあぁぁぁぁぁ!!!」」
そ、そんなに両手を頬に当てて、飛び跳ねるほど盛り上がらなくても…。
「でも、付き合いたいとか…よく、わかんないし…」
「水月は真面目だからなぁ〜!まぁ、黒瀬くんも真面目だし、なかなかお似合いなんじゃない?」
「怜ちゃ(怜ちゃんのあだ名)のいう通りだよ!なかなか良いとおもう!」
「ワンチャン、晴智(晴翔と智美を合わせた造語)より早いかもね!」
「なんか、それはそれで嫌かも…」
智ちゃんが顔を少ししかめる。
怜ちゃんのあらゆる方向に放火していくスタイル、周りを弄ぶのが好きねー。
まぁ、怜ちゃんと智ちゃんが仲良くなってきた証拠だから嬉しいかな!
「で!どうするの二人は!いつ告るの?いつ告っちゃうの!?」
完全にマウントを取られっぱなしだ…。怜ちゃんとは仲良しだけど、ここまで目を輝かせるとは知らなかったなぁ…。
「ねぇ、水月っち、明日の自由行動、でさ…一緒に行動しないか、ラインで誘ってみない…?」
「うっ…!」
智ちゃんも割と感化されてる!?
「私、まだ黒瀬くん個人とラインしたことない…」
「大丈夫、それ、私もだから…」
二人同時にため息をつく。それを見ていた怜ちゃんは面白くないようで…。
「ねぇ、何がっかりしてるの!?いい機会だから、これを皮切りにラインしていけばいいじゃない!」
もう、何を言っても好きな人への恥じらいと捉えられてしまいそうで、反論できない…。
仕方ない…。
「智ちゃん、しよっか。自由行動に誘うだけだし」
「うん…」
「あ、でも……」
流れを断ち切るかのように怜ちゃんが口を挟む。
「明日は他の友達と、自由行動する予定があるんだよねー…」
私と智ちゃんはポカンとしていた。
「だから、Wデートだね!頑張って!」
怜ちゃんは、本当に応援しているのか…それともただ煽って楽しんでるのか…。
でも、とりあえずは連絡だよね…。
手元にスマホを持ってきて、アプリのラインを起動する。個人宛て、黒瀬くんに合わせ、文字を打ち込む。
『こんばんは!良かったら、明日一緒に行動しませんか??』
ちょっと硬かったかな…?突然過ぎ?消灯時間過ぎてるし、見るのは明日の朝?だとしたら、「こんばんは!」じゃなくて「おはよう!」だった?毎日のように顔を合わせているから、こういうものの距離感がわからない…!
既にメッセージを送ったことについてウジウジ悩んでいると既読マークが付いた。どうやらまだ黒瀬くんも起きているようだ。
『良いよ!晴翔も一緒だけど良い?』
そっか、黒瀬くんと白河くんは仲が良いから同じ部屋なのか。
智ちゃんと同時に送ってたら変に思われるかな…。
『うん!私の方も智ちゃんが一緒だよ〜!』
『了解!』
返信はすぐに来た。
チラリと智ちゃんを見る。智ちゃんは、文章だけ打ち込んで、送信ボタンを押す一歩手前でフリーズしていた。
私は、明日の自由行動で一緒になることを伝えた。
ここから先の画面のやりとりは、誰からの介入も受けない私と黒瀬くんの二人だけの空間となった。
『ごめんね、急に個人の方で言って…』
『良いよ!気にしないで!でも確かに、グループの方でメッセージ送っても良かったかな?(笑)』
『あー、ひどーい!』
『ごめんごめん!』
独りでにクスクスと笑がこみ上げてくる。そうしていると、続けてメッセージが送られてきた。
『でも、個人だとグループと違って、言えないことも言えちゃうね』
心臓を掴まれたかのように、脈が強く打たれる。
『そう、なの?』
『俺、星宮さんのこと、好き…』
「ぶえぇぇぇぇぇえええ!!!」
突然の告白にスマホを宙に投げてしまう。そして、落ちた先で、怜ちゃんに拾われてしまう。もう、嫌な予感しかしないよ…。
「ちょっ!返して!!」
「はは〜ん…もう、カップル成立ですかぁ〜?」
「えぇ〜?マジ!?」
「良いから!返して、よっ!」
多少強引だが、スマホをつかんだ手を思いっきり左右に振って、怜ちゃんの手を切り離す。
もう一度画面を見ると、確かに、「俺、星宮さん、好き、」の文字がそこにはあった。
その直後、追加でメッセージが送られてきた。
『ごめん!一個前の晴翔が送ったやつだから!俺じゃないから!でも、ごめん!』
また一つ、小さな傷が増えた気がした。
どうして、こんな…。でも、今は…。
「ほら!見て!白河くんのイタズラだったみたいだから、勘違いだよぉ〜!それじゃあ、連絡も終わったし、もう寝るね!おやすみー!」
異論が出ないようにまくし立てた後、無理やり体を布団にねじ込んで、二人から背を向けるようにして横になる。
私は、声を出さないように細心の注意を払いながら、静かに感情を爆発させた。
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