第23話


 京都駅には、黒瀬くんと白河くんがもう既に来ていた。


「あれ、待った?」

「いや、てか集合時間前だし」

「そっか」


 白河くんと何気ない会話をするが、一応は問いただそうとしている本人なので、良い顔が作れない。


「星宮さん、目、赤いけど…」

「あ、これね!」


 横を向いて手で隠すというあからさまな行為に出てしまった…。


「昨日、夜遅くまで、スマホの画面見てたから、それで…」

「ふーん、そういうの気をつけたほうが良いよ〜」


 はぁ…。こっちの気も知らないで…。


「とりあえず行こっか」


 こうして、私たちの自主研修は始まった。


 とは言っても、行くところがないので、とりあえず歩いて北野天満宮を目指すこととなった。北野天満宮は、学問の神様である菅原道真が祀られているので、いわゆる合格祈願をしに行くのだ。

 とは言っても、一日目で既に回っているのだが、「みんなと同じ回数参拝したんじゃ効果に差がつかない!」と言い張る智ちゃんの熱意に負けて行く事になった。

 そもそも、あなた学年一位の学力なのに神頼みとは…どれだけ高みを目指すんでしょうね?逆に、私も見習えば成績上がったりするのかな…?


 京都駅からバスに乗り、北野天満宮に到着した。

 バスを降りると我先にと、智ちゃんが降り、私たちが続く。


「怒ってる…?」


 黒瀬くんが怪訝そうに聞いてくる。恐らく昨日のことだろう。

 私はムッと白河くんを睨む。が、それに気付かない素振りをする。


「別に…」


 両手を合わせて謝る黒瀬くんを、顔を反らすことで非難した。


「ねぇー!みんなは合格祈願しないのー!?」

「うーん!今行くー!」


 参拝が終わると、八つ橋作りを体験させて頂ける、お店に歩いて向かった。

 道中、トイレ休憩を挟むことにする。

 私がお花を摘み終えると、白河くんが一人で待っていた。

 臨戦態勢だけど、聞きたいことはある。


「ねぇ、なんであんなメッセージ送ったの?」

「え?」

「だから、なんで私にあんなメッセージ送ったの?」


 同じことを二度言わせると、二回目が強くなるのは、自然なこと。

 今はその真意も問いたださねば。


「いや、俺のメッセージじゃないよ?」

「はぁ?」

「だから、俺のメッセージじゃないんだって!」


 何それ、おうむ返しのつもり?ちょっと腹が立ってくるのですが??

 でも、今は堪えて…。


「どういう事?」

「だから……俺は、ただ送信ボタンを押しただけで…」

「へ?」


 送信ボタンを、押しただけ…?

 ラインの機能上、メールと同じように、文字を打ち込むだけではメッセージを送信した事にはならない。メッセージを打ち込み終わったら、送信ボタンを押さねばならない。

 つまり、元々「黒瀬くんが私の事を好き」という文章が打ち込まれていて、白河くんが送信ボタンを押したって事?

 でも、まだ疑いは拭えない…。


「それ、どういう状況で送信したの」


 まだ、私は至りどころのわからない怒りを拭えきれずに問うた。

 しかし、白河くんは平然と答える。ほんの少し悪びれた態度をとりながら。


「いや、部屋で俺が何を話しかけても空返事だったから、何してんのか覗いてみたら、布団の中でスマホいじっててさ、悪ふざけで取り上げた時に送信ボタンを押しちまったみたいで…」

「内容は見たの?」

「見てないよ。だって、黒瀬の奴、すごい勢いでスマホ取り返そうと襲ってきたからな、画面見る隙を見せた瞬間に殺されてたかも」


 冗談交じりに笑みをこぼす。

 私の中で白河くんの話に少し信憑性が出て来ていた。


「でも、そっか、あん時黒瀬は星宮とラインしてたのか」

「知らなかったの!?」

「いや、だから、スマホの画面見る隙に殺されそうだった、って言っただろ?」


 まさか、ライン相手の事を把握していなかったとは…。しかも「私があの時黒瀬くんとラインしてました!」って自白したようなものだし…。しまったな…。


「ほんと、あん時さぁ、黒瀬すごい剣幕で、「画面見たのか?」「何送信ボタン押してんだよ!」ってうるさかったなぁ…。先生に見つかるかと思ったよ…」


 ということは、白河くんは私にどんなメッセージを送ったのか知らない、ってことだよね。


「ごめん、キツく当たっちゃって…」

「いいよ、気にすんなって!」

「二人ともぉー!お・ま・た・せっ!」


 智ちゃんと黒瀬くんが、お手洗いから帰ってきた。

 私たちは再び、八つ橋作りを体験させてくれるというお店に向けて歩き出した。

 しかし、私の中では、より一層の靄が立ちこめていた。


 白河くんの話が本当なら、黒瀬くんが「私の事好き」ってメッセージを打ち込んで送信しようとしていた、ってことだよね…?

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