第15話

 いったいつどこでそんな状況を読み取ったのか、正直その勘には恐怖すら覚える。

 チラリと星宮さんの方を見やると、笠間さんと古賀さんと楽しそうにおしゃべりしている。


「あった、と言えばあったかなぁ」

「さっさと謝っちまえよ」


 内容まで聞かないのは気遣いなのか、単に興味がないだけなのかわからなかったが、さらっと軽いアドバイスをくれるところも良い奴だと思う。

 こういう奴だからこそ、聞いてみたいと思うのは好奇心だろうか。


「あのさ、優し過ぎる人、ってどう思う?」

「どうした、急に」

「いや、ちょっと聞いてみたくて」

「優しいのはいいけど、尽くしすぎるとうざがられるかもな。俺らはまだ子供かもしんないけどさ、大人の真似事もできるし」

「大人の真似事?」

「例えば、自分で悪いことをしたら謝らなきゃ、って思うだろ?それをさ、誰かが代わりに責任を負ってくれたり、かばってくれたりすると、今度はその人に対して気を配ってしまうんだ」

「でも、かばってくれたらラッキーとか思う奴もいるんじゃない?」

「まぁ、ラッキーって思う人もいるんだろうが、そういう奴はそもそも自分が悪いことをしても謝らない奴だよ」


 大人の真似事、ちゃんと責任は自分で取りたい、か。

 美推日誌の件とかがそうなのかなぁ…。

 もう一度チラリと星宮さんを見ると、今度は目が合ってしまい、すぐに逸らされてしまう。


「その、優し過ぎる性格だ、って星宮に言われたのか?」


 視線を読まれたか…。にしても、鋭すぎませんかね〜?なんだったら、もう古賀さんの気持ちにも気づけるんのでは…?

 でもまぁ、僕もここまで読まれたらなぁ。


「正解、そうだよ。この前一緒に帰ってる時にそう言われた」

「じゃあ、怒ってやれ」

「えっ?」

「お前が良い人ってのはわかるけど、もうちょっと素直な感情出していかないとな」


 言ったところで電車が止まり、降車する。

 改札を出て、一旦は同じ方向に歩いていく。

 女子三人組は電車内のおしゃべりが続いているようで、その後ろを僕と晴翔が続く。

 日が長くなってきているとは言え、さすがに18時を回ると辺りは暗くなり、街頭も光をやどす。


 最初に別れたのは笠間さんだった。


「今日は誘ってくれてありがとう!じゃあ、また学校でね〜!バイバ〜イ!」


 僕らは、再び歩き出し、女子二人の会話を中心としながらも、たまに四人での会話となる。

 

「えー!絶対ジェットドラゴンだって!」


 なんのアトラクションが一番怖かったか、という話題になった。ちなみに、ジェットドラゴンとは、俺らが行った遊園地の名物ジェットコースターだ。


「いやいや!お化け屋敷だって!」


 俺と晴翔は、水掛け論に挟まれ、口を挟めない。


「だって、あれだよ?宙返りにひねりもあるし、宙釣り走行もあるんだよ?普通なら絶対怖いって!」

「いやいや!お化け屋敷だって!あの暗い空間に迷路だよ?そしてびっくりさせてくるし、迷ったら永遠に出られないんだよ?」


 なんか、怖いの方向性がまるで違うのにこの言いよう、まさしく「水掛け論」の使用例として教科書に載りそうな勢い…。

 そんなことを考えていると、晴翔からささやきが入った。


「なぁ、黒瀬」

「ん?何?」

「見てるか?」

「何を?」


 そう言うと、前を歩く二人を指差した。


「あれだよ、上手くやれな」

「何をだよ」

「あー、俺こっちだから!」


 言い終わる前に、晴翔の一際大きな声にかき消される。


「あ、私もこっちだ!じゃあ、ここで!」

「んじゃあ、また学校で!」


 図られたっ!!

 恐らく晴翔は、僕と水月さんを一緒にするために、あえて別の道から帰ることを選んだな…。

 古賀さん的にも得した気分になるだろうし、言い出せないっ!

 はぁ、仕方ない、星宮さんと歩こう…。


 そして男女二組に分かれ、それぞれの道を歩みだす。

 星宮さんの歩くスピードは速い。並んで歩くのもためらわれるので、常に斜め前の位置をキープする。


 よくよく考えたら、こうやって一緒に歩けるのはまだ片手で数えられるぐらいしかないんだよね。だから嬉しいけど、状況が状況だし…。今も気まずさ以外の何物でもないし…。

 何度か声をかけてみるものの、やはり反応が無い。

 晴翔の言葉を思い出す。「怒ってやれ」「素直な感情を出していかないと」か、それに古賀さんと星宮さんの水掛け論…。そんなことをして本当にいいのだろうか。でもこの先もずっと、このままで良いの?話せないままで良いの?いや、そんなのは嫌だ!俺はまだまだ星宮さんとたくさん話したい!それなら答えは決まってる!


「星宮さん!」

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