第14話





「なぁ、晴翔、お化け屋敷どうだった?」


 購入した飲み物を持ち、三人の元へ戻る途中、晴翔と古賀さんの進展が気になり尋ねてみる。


「うーん、星宮がオーバーリアクションで面白かったぞ!」

「お、おう、そうなんだ…」


 星宮さん、古賀さんと晴翔をくっつけるつもりだったんじゃ…。


「黒瀬の方は?」


 無意識に何度も腕を掴まれたことを思い出す。が、さっさとそれを脳内から追い出す。


「俺は普通だったかなぁ」

「お化け屋敷に入って普通って、どんな状況だよ!」


 笑ってツッコミを入れられてしまう。

 言われてみれば、そうか…。


「笠間さん、人並みに怖がってたけど、俺はそんなに怖くなかったかなぁ」


 別のことでドキドキしてしまってたからね。仕方ないね。


「まぁ、確かにあんまり怖い感じはしなかったなぁ〜」

「それ、星宮さんのリアクション見て楽しんでたんじゃないの?」

「そうかも」


 自分で聞いておいて、少し傷ついた。


「でも、古賀も結構面白かったなぁ〜」

「へぇー!どんな風に?」

「星宮が取り乱した時に、古賀がお母さんみたいに諭すところがさぁ、ちょっと面白くて!」

「それはちょっと見たいかも!」


 今でも思い出し笑いするほどの光景らしく、つられて俺も笑ってしまう。

 そして、俺の中でも少しホッとした部分があった。


「そういえばさぁ」


 話題がひと段落したところで、笠間さんに言われたことを聞いてみる。


「俺って、一人称“俺”だと変かな?」

「はー?変って?」

「いや、変、っていうか、違和感とかあるのかなーって」

「別に、違和感はないけど…誰かに言われた?」

「笠間さんに言われた」

「ふーん、じゃあ、ちょっと“僕”呼び始めてみたら?」


 ちょっと考えてみたが、別に反対する理由もなければ、“俺”呼びが不評の人もいるので…。


「うん、じゃあ、気をつけてみる」




「お待たせ〜!」

「ちょっと、遅くなーい?」

「ごめんごめん、売り場とか自販機とかなかなか見つからなくて…」


 これだけ見れば、待ち合わせのカップルなんだけどな、古賀さんと晴翔のやりとりを見守りつつ、星宮さんと笠間さんに買ってきた飲み物を渡す。


「一応、お茶と普通の水とスポドリのラインナップだから、スポドリ」

「ありがとう」


 笠間さんがお礼を言ったのに対し、星宮さんは無言のまま受け取る。

 ペットボトルのふたを開け、グビグビと喉に流し込む。


「何?」


 何となく星宮さんを見ていたら視線が合ってしまい、不機嫌そうな疑問符が飛んでくる。


「あ、いや、何でも…」


 やはり、嫌われているのだろうか…。笠間さんには相談したけど、晴翔にも相談すれば良かったかなぁ…。


「ねぇ、次はどこに行く?」


 古賀さんが明るい声をきらめかせて、聞いてくる。


「僕は、メリーゴーランドとか乗ってみたいなぁー!」


 言った瞬間、なぜかその場が凍りついた。晴翔は別に表情の変化はないが、女子三人組が、「えっ!?」という顔をしている。


「く、黒瀬?ふざけてるの?」


 詰め寄る古賀さんの表情が怖すぎる…。

 へっ!?なんで!?ちゃんと、一人称“僕”だったよね?違和感払拭されたはずだよね??


 思った途端、古賀さんが吹き出した。


「ぶあははははっ!メリーゴーランドとか…お子ちゃまー!」

「えっ!?そっち!?」

「そっちってどっちよ!ははは!」


 なんだよ、そっちのことで唖然としてたのかよ…。


「べ、別にいいじゃんか!メリーゴーランド!」

「だって、もっと他に良いのあるのに、そのチョイスは予想外すぎ!」


 ツボに入って腹を抱えるほど面白いのか、これ…。


「まぁ、良いや、行こっか」

「古賀、さすがに笑いすぎ」


 晴翔の軽い脳天チョップが古賀さんの頭に直撃する。「ごめんごめん」と言いつつ、メリーゴーランドに向けて歩き始める。

 それに続いて笠間さんがたちあがる。


「黒瀬、ありがとう」


 何のお礼かわからないが、多分俺だけに聞こえるように耳元でそう言った。

 それに続く星宮さんはやはり何も言わず、後に続いた。




 その後の僕たちは、時間を忘れてひたすら遊び倒した。

 閉園時間のアナウンスで、現実の時間を悟った。

 帰りの電車の中で、晴翔が提案する。


「また、この面子で遊ぼうな!」

「良いね〜!」


 古賀さん的には大賛成なんだろうなぁ。


「なぁ、星宮も笠間も良いだろ?」

「うん!」

「そうだね…」


 笠間さんはともかく、星宮さんがあまり乗り気じゃないのは気になる…。


「もちろん、黒瀬くんも来るよねっ!?」

「えっ!?あぁ、うん」


 笠間さんから予想外の不意打ちだが、また遊ぶことに関しては異存ない。


 それにしても、閉園時間までいたせいか、帰りの電車はやや込み合い気味だ。

 しかし、さすがに閉園時間ギリギリまで遊ぼうという計画の持ち主はそう多くない。よって、ピークはもう終わっているので座れない程度であって、立つ分にはまだスペースがある。


 車内の周りを見渡していると、晴翔が小声で聞いてきた。


「お前、星宮となんかあった?」

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