第5話
そんな事を考えていると、星宮さんは花壇の前でしゃがみこみ、こちらを見て手招いていた。
ボーっと星宮さんを見ていたことには気付かないで欲しいのだが…。
そう思いながら星宮さんの隣でしゃがむ。
「ここ」
そこには、なんの花かはわからないが、双葉の芽が出ていた。
「あぁ、芽が出てるね!」
「違うよ!こっち!」
では、なんで呼ばれたのか考えながら視線を往復させる。
すると星宮さんは、手を伸ばして近くの雑草を引き抜いた。
その時、なんと無く、ではあるが違和感が走った。
なんだろう、なんか、星宮さんの…何か足りない…のか…?
「たまにこうやって雑草抜かないと、栄養がメインの花にいかないの」
「そ、そうなんだ…」
まぁ、違和感の事は良いか。気のせいかもしれないし…。
「お〜い!」
と、突然後ろから歩み寄り、話しかける女子の声がした。
「水月〜!そろそろ昼休み終わるよ〜!」
「あ、うん!」
「ずるいよ水月だけ!こっちはグリーンカーテンのフェンス運ぶの大変だったんだから〜!」
そう言うと、こちらをチラリと見る。
「全く。今更美推したいなんて、物好きもいたものね…」
皮肉なのはわかったが、新しい美推加入者に歓迎をしてくれている…ように見える。
「あ、えっと、二組の
「「知ってる」」
「へっ…?」
まさかの古賀さんと同じセリフでハモるとは…。星宮さんも動揺している。
「知り合い…なの…?」
まずは俺が答えた。
「生徒会でも頑張ってる古賀さんだよね?晴翔と仲良いみたいで、よく話を聞いてるよ」
古賀さんに話すよう促す。しかし、表情が一瞬強張り、突然睨めつけ顏になる。
「あの空研の一員でしょ?部員も四人しかいないし、あんなことやってたら有名にもなるよ」
口調もどこか俺を拒絶する様な感じだ。
空研の事を星宮さんの前で出して欲しくなかった…。それにしても俺、何か悪いこと言ったか…?
星宮さんを見ると、いつかの時と同じく戸惑っている、様に見える…。
「でも、初対面…だよね…?」
「そうだね」「そうね」
またハモった。何かすごいね。
…と思っても、古賀さんはこちらを睨むばかりなので口には出せない。
「まぁ、よろしく」
吐き捨てるように言う。
なぜだか本格的に嫌われたらしい。
そして、星宮さんの手を引き校舎に向かって歩き出した。
「行くよ、水月」
「あ、うん…」
星宮さんは少し後ろ髪を引かれるような形だがが、そのまま古賀さんと先に教室へ戻った。
別に俺のことは気にしなくて良いのに…。
その日、また狙った様に放課後になってから雨が降り始めた。
昇降口まで来ると、これまた星宮さんがいた。前の時と違うのは、向こうから話しかけてきてくれたことだった。
「黒瀬くん」
「星宮さん、今帰り?」
「そうなんだけど、雨降ってきちゃったから…」
「…傘、貸す…?」
「いや、あのね、私じゃなくて…」
そう言うと星宮さんは困り顔でほとんど首を動かさず左に視線を送った。
これは後ろに何かあるらしい。俺が視線を星宮さんの後ろへ伸ばすと、古賀さんがいた。
そして、なんとなくだが、察しがついた。
「はい、これ」
俺はリュックから折り畳み傘を差し出す。
「ごめんね、ちゃんと返すから」
「良いよ、なんとなくわかったから。気にしないで使って」
「うん、ありがとう」
俺の折り畳み傘を受け取ると、古賀さんのところへ走って行き、俺の折り畳み傘を古賀さんに渡すところが見えた。
やっぱりだ。俺の察した通りだった。
星宮さんが先に傘を開き、古賀さんが傘の構造を理解してから遅れて傘を開く。
二人は雨の中へと歩いて行った。
正直、俺は新学期初日と同じ様に自分の運の悪さを恨んだ。
なぜなら、今日の天気予報は一日中晴れだったからだ。
「どうすっかなぁ…」
ポツリと呟く。傘を渡さなくても良かったんだろうが、古賀さんに嫌われているのに、ますます嫌われかねないから。あの場は渡したほうが良かったんだろうけど…。
それでも、やりきれない歯がゆさがある…。
ボーっとしていると、星宮さんに傘を渡すところが脳内でプレイバックした。
その時、全身に雷が落ちたような感覚が走った。
それは、昼休みに感じた違和感の原因と思わしきものだった。
根拠はない、でももしかしたら…。
そう思えてならなかった。
思った瞬間に体が動き出していた。
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