第4話
二日後の昼休み、早速美化推進委員としての集まりがあった。
俺と星宮さんは早めにお昼を食べ終え、集合場所である昇降口へ向かった。
「はい、え〜、美化推進員の顧問、斉藤です。早速ですが、今週から花壇とプランターに植えてある花の水のやり当番を決めます。尚、今日から新しく入った人もいるので、先輩方に水のやり方を教わるついでに、顔とか名前とか覚えて下さい」
ふと見回すと、三年生が6人、二年生8人、一年生も8人、という感じらしかった。
「え〜、新しく入ったのは、一年と三年の黒瀬だな」
「マジか」
つい、うっかり声を出してしまった。
この事により、最速で名前と顔がばれてしまう。
「何か言いたい事でもあるのか、黒瀬?」
「いいえ、何も!」
「では、二年と一年がちょうど良いから、マンツーマン指導で、黒瀬は…星宮、頼めるか?」
「あ、はい!わかりました!」
「よろしく頼む、でだ、やる事なさげな三年二組から五組の連中は、グリーンカーテンのフェンスを運ぶのを手伝ってくれ」
小声ながらも、「えぇ〜、まじかよー…」という言葉が、ちらほら聞こえた。
普段の教室が南側向きなので夏は思考が回らないほど蒸し暑くなる。そこで誰が言い出したのか、受験を控えた1階三年生教室の窓側にグリーンカーテンを作ろうとなったのだ。
「それじゃあ、早速だが明日の放課後から、一年一組スタートの1日交代で水やりを頼む。次に一年二組で五組まで行ったら次は二年一組って感じだからよろしく!あ、そだ、雨の日は水やり不要な。持ち越しも無しだ。あと、土日もやらなくて良いや。それじゃ、作業を始めますか。終わったところから解散して良し!」
という事で、俺は星宮さんから花に水をやる手順を教わる事になった。
「水やりは大体ここの昇降口向かいの棚に置いてあるの」
「使い終わったら、戻すときもここ?」
「そう!でね…」
星宮さんはごく普通に、そして丁寧に教えてくれた。
聞きたい事があったら遠慮無く、というので、一つ聞いてみる。
「あ、あのさ」
「うん?何?」
「いや、あの、美推がいないクラスはどうするのかな、って思って…」
「あぁ〜、去年はそういうクラスあったなぁ、確か先生がやったり、代わりに生徒会がやったり、色々してたみたい」
「そうなんだ、っていうか、逆に考えたら俺らのクラスはラッキーだよね」
「ん?どうして?」
首を傾げながら、はてなマークが見える様な頭の傾け方をした。
「どっちか休んでも、欠かさず水をやれるから」
なんと無くカッコつけてみた…様な形になった。
星宮さんは呆気に取られた様な表情をすぐに取り繕った。
「そ、そうだね!もし私が休んだ時はよろしくね!」
「お、うん」
それで、一旦この話題が終わったかと思われた。しかし、少し恥ずかしさの色を滲ませながらも繋ぎ止められた。
「でも、私も黒瀬くんが美推に入ってくれてラッキーだよ…」
妙にこういう笑顔をされると、身構えてしまう。
別に、星宮さんにとってラッキなーだけなのに…。こういうのは自分の勘違いの元だからなんとかしなければならない…。
悲しいが中学生男子なりに異性というのは気になりだすもので、これは心の成長というヤツだから仕方がない。
それでも、その意味を聞くのが自然な流れだろうと思い、言葉を返す。
「どうして?」
すると突然、星宮さんは口に手を添え、俺の耳元で囁いた。
「黒瀬君と一緒…」
「うわぁっ!」
文言の途中だったが、つい距離を取ってしまった。
「あっ、ごめっ…」
「んんっ!私こそ…」
正直、これはからかっているのかと疑った。しかし、驚いた様な表情で勘違いと気付く。
「あんまり大きい声で言えないからさ、耳貸して」
最初からそう言ってくれれば、良かったのにと思ったが、胸にしまっておく。
星宮さんはごめんごめんと言いたげに、悪びれた笑顔で手を合わせる。
そして横を向き、今度はしっかりと囁きを待ち構えた。
「黒瀬くんと一緒のおかげで、グリーンカーテンのフェンス運ぶの免除されたから!」
星宮さんの声が、真横から正面に戻る。
「なるほど…」
「去年、先輩たちが運んだり、組み立てたりしてるの見てたら大変そうで…」
「それでラッキーなんだね」
「うん!そうなんだ!だから、ありがとう!」
まぁ、何はともあれ、かな…。
ってか、だいぶ会話できるようになってるじゃん。俺も。星宮さんも。
星宮さんはきっと、美推の仕事が好きなんだ。だから、こうやってお話できるのだと思う。それに、恐らく一年、二年とやってきた事を人に教えるのだから、悪気は無くとも無意識の内に得意げになっているのかもしれない。
それにしても星宮さん、楽しそうだな、って…。
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