第2話

 号令と共に部活動・委員会紹介は始まった。

 紹介する順は運動部、文化部、部活には属さないが部としてカウントされる団体、委員会の順だ。


 初めは野球部やサッカー部などのメジャーな運動部から始まり、部員数の多い順に紹介されていく。

 次の文化部も同様に、吹奏楽部から始まり、部員数の少ない所へバトンが渡される。

 その次に、厳密には部活に属さない、同好会や愛好会。


 俺らは当然…。


「部活動紹介の最後は空想戦略研究会です!それでは、お願いします!」


 順番はわかっていても、進んで体は動かない。

 しぶしぶ俺はステージへと向かい、晴翔と共に説明を始める。


「えー、もし、皆さんが特殊能力を使えるとしたら、どのように使うでしょうか?」


 早速体育館がざわつき始める。


「えっ?何言っての!?」

「超痛いんですけど〜!」

「部員って、まさか4人だけ!?」

「いつも何やってんの〜?」

「ムリ〜!ないわぁ〜!」


 嘲笑、冷笑、苦笑、失笑、鼻で笑う奴もいるな…。

 とにかく笑われている事は確かだ。

 俺だってそんな事になるってわかってるんだけどなぁ…。


 しかし、セリフは続く。


「更に、もし自分の倒すべき相手が特殊能力持ちだとしたらどうでしょう?例えば、こんな感じに…」


 その時、スポットライトがステージの二人を捉えた。

 一年後輩の赤城あかぎ郡司ぐんじ栗生くりゅう空碧あくあだ。

 今から一番痛い演出をする二人でもある。


「聖なる力も、邪悪なる力も、全て私の中。貴様ごときが私を倒そうなどと…」

「コード137、オペレーションマルタを開始する。中隊、撃ち方始め!」


 あぁ、痛い…痛すぎる…。

 栗生の言う、聖なる力?邪悪なる力?どこのインチキ宗教だよ…。っていうか、完全に言ってる事悪役だよ…。

 それに、赤城のも何言ってるかまるでわからん。コード137って何!?オペレーションマルタって何者!?中隊って、お前一人じゃん!

 こんなくだらない幼児の”ごっこ遊び”をしているなんて…!いや、それ以下か…。

 本当、中学三年にもなって何やってんだ…。


 ちなみに言うと、栗生はエセ厨二病、赤城はエセ軍事オタクである。なぜエセかというと、二人とも口を揃えて「本気の人に失礼」という謎の配慮からだった。

 そういう配慮はできるのに、生徒への配慮は足りないと思うのは俺だけか?俺のエゴなのか!?


 そして舞台上は締めくくりの台詞を発する。


「皆さんも一緒に楽しく研究しませんか?よろしくお願いします!」


 だらしない拍手はもはや、それぞれタイミングを外した手拍子だ。しかも、ゆっくりなテンポ…。

 あぁ、去年と同じく、同類の眼差しを喰らうんだろうなぁ…。しかも新入生に…


「お疲れ!」


 ステージを降りながら晴翔が背中を軽く叩く。


「疲れたってレベルじゃねーよ…」

「まぁまぁ、とりあえず終わったからいいっしょ!」

「はぁ…心に火傷と切り傷など諸々の傷を負わされて、それを一般生徒に見られて指をさされて痛い痛いって言われたんだぞ…」

「うわー…なんか独特な傷つき方だね…」

「晴翔は痛くないのか!?」

「いや、痛いって言われたのそういう意味じゃないと思うのだが…」

「大体、なんで俺らみたいなのが最後なんだよ…。」

「人数の少ない部活を最後にするのは、見ている人の印象に残りやすいからだってさ。それで、部員数獲得のバランスを図るのが狙いだって、古賀こがが言ってたぞ」

「はいはい…見事に印象に残る紹介でしたね…」

「だろ〜?だから部員も来るって!」


 ほんっと、晴翔に皮肉が伝わらない。

 もしかしたら晴翔には皮も肉もないんじゃないのか?と訳のわからんボケツッコミが思いついたが、さすがにそれは黙っておく。


 空研、即ち俺らの次はというと、委員会の紹介だ。

 生徒会の説明から始まり、諸々の委員会へ流れていく。

 と、美化推進委員会の説明が目に止まった。

 

「あ、あれ、同じクラスの女子だよな」

「あぁ…」


 ふと見ると、星宮さんがステージ脇に立っている。

 なるほど。星宮さんは美化推進委員だったのか。

 星宮さんは、手を前に組むようにして右手で左手首を強く握っている。

 表情はよく見えないが、少し俯いている事がわかった。

 そして、両手を脇に戻し、まっすぐ顔を上げた。


 次の瞬間、星宮さんは歌を歌っていた。


 正直、何の歌かはわからなかった。外国語なのは確かだ。

 星宮さんの歌う姿は、上手いという言葉では足りなかった。もはや形容しがたい趣があった。

 今この体育館には、ほぼ全校生徒、ほとんどの職員もいる。それなのに、周りの人がいないかのように感じられる。そう、隣に座る晴翔さえも。

 星宮さんの歌声でこの体育館は別次元へと姿を変えていくのを全身の鳥肌が感じている。

 歌声だけではない。歌う姿、表情、抑揚、表現など、歌に詳しくない俺でもわかるほど、何か伝わるものを感じた。

 それほどまでに星宮さんの歌は、繊細で美しく、綺麗だった。


 そして、俺の中の何かが奪われた。


 気がつくと、全体が拍手で満ち溢れた。

 周りを見ると、立ち上がっている生徒もいる。

 星宮さんが一礼し、ステージを降りたところを、クラスの女子達が取り囲む。


 これで、全ての紹介が終わった。

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