女子に「一緒に帰りませんか?」と言うと告白になるらしいので、色々工夫を凝らして偶然を装いたい。

芦ヶ波 風瀬分

第1話

 予報どおり、放課後直前に雨は降り始めた。


 新学期早々に雨とは運がない。

 俺って、日頃の行いそんなに悪かったか?

 春休みだって、ちゃんと早く起きたし、勉強もそこそこやって、ちゃんと良い子してたんだけどなぁ〜。


 昇降口に着いたところ、誰かが空を眺めている。


「えっと、星宮ほしみや…さん?」


 呼びかけるとビクッとして振り向いた。

 その反応にこちらもビクッとしてしまうのは人としての定めなのか…。

 彼女の髪や服装を見る限りでは、雨にうたれて雨宿りをしてきた訳ではなさそうだ。


「え、あ、えーっと、同じクラスの…」

「あー、俺、黒瀬くろせ健介けんすけ

「あ、うん…。あれっ?でも私の名前…」

「あ、えっと、先生がそう呼んでたから、それで、覚えた…」

「そっか。」


 視線が合わない…。なんか気まずい…。言葉が浮かんでこない…。

 そもそも何の為に話しかけたんだ俺は…。


 チラッと見ると、後ろで手を組み、彼女は俯いてしまっていた。

 困り顔…のように見える。

 そして次の瞬間、何かを思いついたように顔を上げ、沈黙を破る。


「あ、私ね、下の名前は水月みづきっていうの。星宮ほしみや水月みづき。よろしくね」

「う、うん。よろしく…。えっと、星宮さんは今帰り?」

「そう、でも雨降ってきちゃって。傘持ってきてなくて…」

「それじゃあ…」


 咄嗟にリュックから折りたたみ傘を取り出す。

 普段から落ち畳み傘は常備している。理由は簡単で、雨が上がれば傘を閉じれば良いが、逆に降り始めて雨具が手元にないのは困るから。


「これ…使って、貸すから」

「えっ、でも…」

「俺、持ってきてるから、普通の傘」

「あ、うん、ありがとう…」


 受け取って貰えた。そしてバサッ!と広げ、雨の中に走っていった。

 その星宮さんの一連の動きに合わせ、目も動いていた。

 そして、姿が見えなくなったところで、とある事に気付く。


「俺も帰るところじゃん」


 中学最後の一年間は、こんな形で始まった。






「なぁ黒瀬!中学最後だから、しっかり勧誘しないとな!」


 次の日、俺たちは登校後体育館に向かっていた。

 今日は新入生の為の部活動紹介、並びに委員会の紹介がある。

 ここ澤野西中学校では、部活動加入と委員会加入は有志となっている。

 しかし、何にも加入しなかった場合、内申書の「活動記録」という欄が空白になってしまい、高校入試では不利になる可能性が高い。

 その為、大大的に紹介、説明、宣伝、勧誘を行い、少しでも加入してもらえるようにとの計らいで、新学期に入ると、このような催し物がある。

 ちなみに、部活動と委員会活動のどちらかに加入していれば、「活動記録」として記載される。無論、掛け持ちも可能だ。


「晴翔はいいよなぁ、人前に出るの恥ずかしくないんだろ?」

「いや、恥ずかしいの前に楽しくね?そこで笑いとか取れたら最高に気持ちいいし!」

「狙ってできれば楽しいんだろうね」

「まぁな!」


 皮肉を込めたつもりだが、相変わらずポジティブな奴だ。

 実際、この白河しらかわ晴翔はるとは頭が良いし、運動もできて、ルックスも悪くない。おまけにこの性格の明るさだから、皮肉も言いたくなる。

 だから決まって俺の口調はストレートになる。


「っていうか、誰も来ないだろ。空想戦略研究会なんて…」

「じゃあ、お前はなんで”空研”に入ったんだよ」

「名前見た瞬間に、やる気なし、やる事自体もほとんどない、変人しか集まらないから部員数も少なく部室も静か、よって落ち着いた空間を確保できる、部室に一人なら勉強もはかどる、欠席によるお咎めなし、それどころか参加義務すらない、って感じた」

「お前、先輩それ聞いたら泣くぞ…」

「本当、俺たち後輩が入って良かったよな」

「そっちの涙じゃねーよっ!」

「まぁ、でも、居心地はいいからね」


 居心地が良いのは本当だ。

 だから今日だけ、今日さえ乗り越えれば、あとは何も後ろ指を指される事なく卒業できる。

 この部を誇りに思っていないが、自分の空間を得られる最高の環境なんだ…。

 今日さえ乗り越えれば…。


 会話している間に体育館に着いた。

 一応は整列し、紹介される部署が呼ばれたら前に出るという形式をとっている。

 その中には衣装やユニフォームなどを着て、いかにも出る気満々、という面々も見える。


「それではこれより、部活動・委員会紹介を始めます!」

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