俺のカノジョが偏食過ぎる
小高まあな
俺のカノジョが偏食過ぎる
月影ユリアは学校一の美少女である。腰まである長い黒髪は、よく手入れされていて艶やかである。華奢な体は抱きしめたら折れてしまいそうで、保護欲をかきたてる。雪のように白い肌の中、いやに赤い唇は色っぽい。
何を隠そう、俺のカノジョである。
付き合いはじめて、まだ一週間だが。ユリアの前の恋人が、突然学校を辞め、別れたと訊いて、これ幸いと玉砕覚悟で告白したのだ。まさかOKがもらえるとは思ってなかった。失恋の痛手につけこんだとも言えるけど。
しかし、彼女の歴代の恋人達、彼らとは、背の高さとガタイの良さが一緒だ。外見だけならツボを押さえていたのだろう。そういや、何故かみんな突然学校来なくなったけど。
告白した後、妙に血液型を訊かれた。血液型占いを信じる可愛いところがあるのかもしれない。だとしたら、B型の自分に感謝だ。
そんなユリアと、今日はじめてお昼を一緒に食べる。体が弱くて、太陽が苦手だという彼女のために、旧校舎の使われていない階段という室内且つ二人きりになれる場所をがんばって探したのだ。
購買で買ってきたパンに、いそいそとかじりつく。
「ユ……、月影さん、お昼は?」
笑いたければ笑えばいい。未だに恐れ多くて直接名前を呼べないのだ。
ユリアは、赤い唇でくすりと笑うと、
「ユリアでいいって言っているのに、トシ君ったら」
なんて言ってくれた。マジ可愛い。
「お昼、ちゃんとあるよ」
と、言いながらユリアが取り出したのは、トマトジュースのペットボトルだった。それも一リットル。
「……は?」
理解が追いつかない俺を尻目に、ユリアはその小さな手で、よいしょっとペットボトルを抱えると、そのままゴクゴクとラッパ飲みした。一気に飲み干すと、ぷはっと息をつく。
「ご、豪快だね……?」
かろうじてそれだけ口にする。
「そう?」
首を傾げながら、ユリアは鞄からもう一本、同じペットッボトルを取り出し、口を挟む間もないうちに、飲み干した。
はぁっと一息ついた声は色っぽいし、唇についたトマトジュースを唇と同じ赤い舌で舐めとる姿はなまめかしい。それにはドキっとする。するけど、
「ちょっ、月影さん」
「もー、ユリアだってば」
めっと、白い人差し指でつっつかれる。うわっ、かわいー! じゃなくって。
「ユ、ユリア。それが、お昼?」
「そうだよ?」
ユリアは微笑んだあと、少し深刻な顔で続けた。
「食が細いし、偏食だから、お昼はいつもこれなの。これでも、前よりは食べられるようになったのよ?」
いや、食べてないけどね。飲んでるけどね。
「それとも」
ユリアは、綺麗に整った眉を悲しそうによせて続ける。
「好き嫌いの多い女は、嫌い?」
上目遣いで言われた。不安そうに。
「そんなことないよ!」
大慌てで答えた。反射的に。嫌いなんて言うわけがない。
「ただ、驚いただけ」
「よかった」
ユリアが安心したように笑った。
「ほら、トシ君、気にしないで食べて?」
言われて、再びパンにかぶりつく。
「お昼、パンなの? いつも?」
「うん。それか、学食かな」
「もっと栄養あるもの食べた方がいいよ。貧血になっちゃう。レバニラとかほうれん草とか。鉄分、とった方がいいよ?」
貧血になりそうなのはユリアの方だけどな。
「そうだ、私、今度お弁当作ってくるね!」
可愛らしく両手を叩いてユリアが言う。
「お弁当っ!?」
ユリアの手作りの!?
「嫌?」
「ううん、全然! 嬉しい!」
「よかった、張り切っちゃう」
小さくガッツポーズする姿はとても可愛い。
「トシ君には、健康でいてもらわないとね」
「ありがと。……ユリアもちゃんと食べてね?」
ユリアは小さく照れたように笑った。
「うん、そのうちね」
可愛らしく小首を傾げる。赤い唇の隙間から、大きめの八重歯が見えた。
「おいしく頂くね」
俺のカノジョが偏食過ぎる 小高まあな @kmaana
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