知人が出来たら家へご招待。冒険者パーティーとボクたちの拠点
パーティーメンバーから叱られ踏まれ、ボロ雑巾のようにされてしまったゴリアテさんだが、思ったよりも早く復活した。
そして今、ゴリアテさんはボクの目の前で土下座をしている。
なぜこうなったのか……。
「すまない! さすがにハラスメントだと言われたら言い返せない!」
「ええっと、別にハラスメントとは言いませんけど、失礼なことを言ってしまうのは考えものですよ?」
パーティーメンバーから散々叱られ、ボクに謝罪するゴリアテさん。
ゴリアテさんのその姿に、ボクはいたたまれない気持ちになっていた。
「わかりましたから、もう大丈夫ですから」
「申し訳ない。やっぱりハラスメントとかそういうものは気を付けていかないとなぁ」
ゴリアテさん、現実で何かあったんだろうか?
見たところ三十代前半といったところなので、職場でいざこざがあったのかもしれない。
そう思うと、何でも許せる気がしてくるので不思議だ。
「よしよし」
「俺は子供じゃないんだが……」
「いいじゃないの、普通はそんな子がなでてくれたりはしないものよ?」
一部始終を見ていた弓師のカリーナさんがボクたちを見てそう言う。
ボクが大人の男性の頭をなでている光景は、きっと奇妙に見えるだろう。
とはいえ、ボクはなんとなくこうしたほうがいいような気がしたからなでている。
ちょっとかわいそうと思っていたら、不意になでたい衝動に駆られたからなんだけどね。
「いいなぁ、スピカちゃんのなでなで」
「漂う犯罪臭にうちもびっくり」
コノハちゃんがじっとボクの方を見ながらそう言い、盗賊の女性が目を丸くしながらゴリアテさんにそう言っていた。
やっぱり絵面としては良くないようだ。
「美少女からのなでなでとか、ご褒美もいいところですね。うらやましい。しかもきつね少女になんて」
魔術師の男性からは何か怪しい気配を感じる。
顔はかっこいいほうだけど、もしかして変態なのでは……。
ボクは少し警戒することしようと思う。
「あっ、スピカちゃんの尻尾が少し膨らんだ。警戒している証拠」
ボクのことを誰よりもよく見ているコノハちゃんには、ボクの感情が筒抜けだった。
本当によく見てるなぁ、コノハちゃん。
「とっ、とりあえず、立ち話もなんだから、落ち着けるところに行かない? ボクたちの拠点が近くにあるから」
「えっ!? もうここで家を手に入れたの? いいなぁ。何戸かは先行で決まったらしいんだけど、入手クエストが終わってなくてまだ手に入れられてないんだよね。それに戸数制限もあるみたいだし」
ボクの拠点にみんなをお誘いしたところ、盗賊の女性が驚いていた。
どうやら早めに手に入れている人は少ないようで、持っている人は珍しいようだ。
ゴリアテさんたちも頑張って入手しようとしているみたいだけど、手に入るといいね!
「盗賊のお姉さんたちはみんな一緒に住むの?」
「はっ!? 嫌に決まってるでしょ?」
「それは……。ごめんなさい」
「それはちょっとごめんこうむりたいかな」
「えっ? なんでだよ」
「私は落ち着ける場所ならどこでも構いませんけどね」
無邪気にゴリアテさんたちに問いかけるコノハちゃんがすごい。
露骨に拒否されて、ゴリアテさんが傷ついた顔をしているのはご愛敬ということで……。
「あはは、うん。そうなるよね」
「何か困ることでもあるの?」
「えっと、MMORPGだったらそれも可能だったんだけど、これってVRMMOでしょ? 現実的な視点でプレイするゲームだから男女一緒に住むってのはなかなか大変なことなんだよ」
「そうなの? それでも困ることはないと思うけど。でも、仲良い人じゃないとちょっと嫌かも」
「大人になるといろいろあるらしいしね。ボクたちにはわからないこともまだまだ多いよ」
「そうなんだ? 大人って大変なんだね」
コノハちゃんが純粋過ぎて困る。
時々不穏な言い方もするけど、ほとんどそういう知識はないようだ。
そういうボクもちゃんと知っているわけではないので、コノハちゃんよりは多少知っているというくらいだけどね。
「と、とりあえず行きましょう」
これ以上は面倒なことになると感じたので、打ち切って屋敷へと帰ることにした。
「うわっ、ここ!? 大きいね」
「すてきです。古風な洋館スタイル」
「いいところを手に入れたのね。うらやましい」
「なんていうか、維持費高そうだよなぁ。俺は身の丈に合ったもので良いかな」
「こういう古風な洋館と魔術師というのはとても合いそうですね」
「とりあえず入ってよ。今なら他の人いないから」
早速扉を開け、ボクはみんなを招き入れる。
家の扉は家人のほかには開くことができない仕組みになっている。
盗難などの犯罪防止のためらしいけど、堂々と他人の家に入る人がいるかは疑問だ。
ただ、VRMMOというのは異世界にいるようなものなので、現実的な犯罪が起きやすいという懸念がある。
それゆえの措置なのだとか。
「お帰りなさいませ、お嬢様、コノハ様」
「あれ? 私まだ来たことない」
「パーティーメンバーだから先に伝えておいたんだよ」
「そうなんだ? ありがとう、スピカちゃん」
ちなみにカレンさんやリーンさん、うちの兄のことも伝えてある。
すでにルードヴィヒさんも承知しているので追い返されたりはしないし、扉を開くことができるはずだ。
「お初にお目にかかります、コノハ様。私(わたくし)執事のルードヴィヒと申します。こちらはメイド長のカルナと申します。以後お見知りおきを」
「よろしくお願いいたします」
ルードヴィヒさんにカルナさんがコノハちゃんに一礼しあいさつをする。
ルードヴィヒさんの名前は言いづらいので、普段人に説明する時は執事さんと呼ぶことにしている。
ただし、本人の目の前でそういうと、少しだけ悲しげな顔をするので注意が必要だ。
「よろしくお願いします」
コノハちゃんもちょこんとお辞儀をして顔合わせは完了だ。
あとはお客さんのことだけど……。
「わわっ、本物の執事!? それも侍従精霊だ!」
「侍従精霊? それはなんなの、シルちゃん」
「知らないの? アイルは遅れてるなぁ~」
盗賊の女性は神官の女性を『アイル』と呼び、神官の女性は盗賊の女性を『シル』と呼んだ。
二人は侍従精霊について話しているようだけど、実はボクも知らなかったりする。
なので、少し興味があったりするんだけどね。
「『侍従精霊』ってのはね、主をサポートすることに特化した万能型の執事精霊とメイド精霊のことなんだよ。そういうメイドはメイド長と呼ばれるんだけどね。んで、この精霊たちは上位ランクに位置してるってわけ。そのほかだと普通の人間だったり獣人だったり、とにかくランクが落ちていくんだよ」
「えぇ!? 人間とか獣人じゃだめなの?」
「そんなことないよ。ただ初期ステータスが一番高くてずっと優秀なのが侍従精霊で、言ってみればSSRだね。人間や獣人も育てば十分負けないんだけど、それまでが長いってわけ」
「へぇ~。獣人の執事やメイドがいたら、もふもふできるかな」
「それはどうだろう? そういえば、スピカちゃんってもふもふしててかわいいよね?」
「ふぇっ!?」
侍従精霊の話から一転、ボクに矛先が向きだした。
シルさんの一言でアイルさんがこっちを振り向く。
その振り向く速度がやたら早くて怖いんだけど!?
「きつねっ娘、もふもふ」
「アイル~? 落ち着こうよ。気持ちはわかるけどそうやって猫にも逃げられてるでしょ?」
「そ、そうだよね。はぁはぁ……」
「息が荒くないかな!? それにボクは猫じゃないよ!」
シルさんはアイルさんを引き留めているものの、アイルの鼻息の荒さは変わらない。
そんなにボクの尻尾が魅力的なのかな?
まぁ、尻尾を褒められるのは悪い気がしないんだけどさ。
「スピカちゃん人気者?」
「ボクの尻尾は他人を魅了する。やっぱりボクの尻尾は最高ってわかっちゃうんだね!」
自分でいうのもなんだけど、ボクは自分の尻尾に自信を持っている。
本体よりも尻尾の毛並み、色つやを常に気に掛けるほどにだ。
この感情は他の人にはわからないだろう。
絹のような手触りの毛並みに青銀色に輝くしなやかな尻尾、抱きしめると温かくそして柔らかく包み込んでくれるふさふさの尻尾はどんな宝にも勝ると自負している。
なので、アイルさんがボクの尻尾に一目ぼれするのも理解できる。
ちなみに、ボクはいつも自分の尻尾を抱いて寝ているので安眠快眠は保証するよ!
マイアもたまにボクの尻尾を抱いて寝ているくらいだしね。
ボクはちょっとしたいたずら心で、アイルさんの前でこれ見よがしに尻尾をゆっくり左右に振る。
その動きを目で追うアイルさんはなんだか面白い。
ふふん、なんだか求められてるのにあえて触らせないという行動をしているとどんどん楽しくなってくるね。
ちょっと癖になるかも……。
「もふもふが私を待ってる……」
「あはははは、アイルってば興奮しちゃって」
「落ち着きなさいってば。ほんとふさふさしたものとか動物に弱いんだから」
「だって~……」
「なぁ……。アイルが興奮してるところって、メルヴェイユ冒険者ギルドのアニスさん以来か……?」
「きつね少女がかわいいのは理解できるので気持ちはわかるけど、あの食いつきはちょっと怖いな」
「スピカちゃん大変だね」
「何言ってんのさ、コノハちゃんだって山猫……。何で変化してるの?」
「危険察知。怪しい気配を感じたからつい」
コノハちゃんは要領よく危険から逃れるために変化で人間の姿になっていた。
なんて素早いんだろう、この子は……。
「私に尻尾をさわらせろ~!!」
アイルさんは動けず恨めしそうにボクを見つめる。
やっぱりボクの尻尾は魅力的過ぎて困るよね!
自慢の尻尾を求められるのは悪い気がしなかった。
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