ギルド騒然! 倒したゴブリンの秘密
ゲームの中だというのに疲労がたまるのはなんでなんだろう?
脳が疲れているとかそういうことなんだろうか?
ゴブリンリーダーとの戦いで体力を消耗したボクは、コノハちゃんと一緒にマタンガ集落へと戻ってきていた。
ゴブリン達が運んでいたたくさんのガラクタは一応回収しておいた。
一体どこでこんなに集めて来たんだろう?
「お帰りなさいませ、ご主人様」
屋敷に戻ると人型になったミアが出迎えてくれた。
ミアは執事さんたちよりも早くボクたちを出迎えようとしてくれる。
それはもう、専用レーダーでも装備しているのかのようにだ。
「すぐにギルドに行っちゃうけど、ミアも一緒に行く?」
「よろしいのですか? 執事さんたちの手伝いなどをしていたので、一緒に行けるならうれしいです」
「うん、一緒に行こう」
「ミアちゃんと一緒に行くのは久しぶり」
「コノハ様もお元気そうで何よりです」
二人は仲良く楽しそうに話している。
二人とも気が合うようで、一緒にいるときはよく遊んでいるのを見る。
ミアは遊びを知らないため、コノハちゃんが教える係になっている。
ちなみに、ミアのかくれんぼスキルはかなり高くて、なかなか見つけることができない。
ボクはなんとなく見つけることが出来るけど、コノハちゃんは苦戦しているようだ。
「それで、今日は何して遊ぼうか? かくれんぼ? あやとり? それとも……」
「まずはギルドに行ってから報告と情報集めをするよ。思ったより敵が強そうだから調べないと」
「そうだった。ミアちゃんがいるとつい」
別にコノハちゃんが忘れっぽいとかそういうことじゃなく、二人はよく一緒に遊んでいるので、会うとまずは何して遊ぼうか? という話になるのだ。
今回もその流れになってしまったらしい。
「たしか、山賊ゴブリンの討伐でしたよね? 何か問題がありましたか?」
「ちょっとだけね。もしかしたら普通のことなのかもしれないけど、気になったからさ」
「それでしたら、急ぎましょう。何か起きている可能性もありますので」
ボク達は早速ギルドへと向かった。
チリリン
精霊ギルドではドアのベルは鈴のようだ。
冒険者ギルドの音とは違って、高く響く音で来客を知らせている。
「いらっしゃいませ、精霊ギルドへようこそ。おや? あなたはスピカさんでしたね? どうなさいました?」
ギルドの受付にいたケイスさんがボクに問いかけてくる。
ボクはとにかく気になったことを尋ねた。
「あの、山賊ゴブリンは認識票を持っていますか?」
ボクが持っている認識票は『鉄』と『銅』、それとコノハちゃんが倒した荷運びゴブリンの『石』の三種類だ。
「はい、山賊ゴブリンは平原にいるゴブリンと同じく木製の認識票を持っています。違いがあるとすれば木の材質の違いでしょうか。山賊ゴブリンの認識票のほうがなめらかですね」
「えっと、それじゃあ、木製ではない認識票を持ったゴブリンがいたとしたら?」
「木製ではない認識票ですか……? そうなりますとゴブリンアーミーでしょうか。『アーチャー』と『メイジ』、そして『ハイゴブリン』でよく構成されています。ゴブリンアーミーの訓練生はよく荷運びをしていますね。認識票は、アーチャーが『銅』メイジが『銅』、ハイゴブリンが『鉄』、訓練生は『石』で出来ています。もし彼らを見かけた場合は緊急事態が発生する可能性があります」
チリリン
「ケイスさん、山賊ゴブリン狩って来たぜ! ずいぶん滑らかな木の認識票なんだな。平原のは粗悪品もいいところだぞ」
「おや、お帰りなさい。認識票はいくつ手に入りましたか?」
「おう、全部で三十だ。仲間五人で小さな拠点をつぶしたからな」
「さすがですね、異世界人は強いと聞きましたが、これほどとは」
「まぁな、俺たちはこういう狩りは結構長くやってるからな!」
ケイスさんはやってきたプレイヤーたちの成果確認と支払い作業をしている。
やってきたプレイヤーたちは、戦士のリーダー格の大柄な男性、魔術師の若い男性、弓師の若い女性と盗賊の十代後半くらいの女性、そして神官の女性の五人だった。
年齢はまちまちで、一番若そうなのは盗賊の女性だ。
たぶん高校生くらいだと思う。
「あっ、すまない。先だったか?」
「あっ、えっと……」
「ちゃんと人がいるか見てから話しかけなさいよ」
「わりぃわりぃ。見たところ、子供ばかりだけど保護者はどこにいるんだ?」
戦士の男性がボクたちに気づき、割り込んだことを謝ってくる。
ボクは答えようと思ったけど、弓師の女性が割り込み戦士の男性を叱り始めた。
なんだか仲が良いけど、兄妹か何かなのかな?
「おっとと、すまない。『カリーナ』はすぐに怒るからな。それでだ、お嬢ちゃんたちはこんなところで何をしてるんだ?」
カリーナと呼ばれた弓師の女性から何とか逃れてきた戦士の男性は、あらためてボクたちに問いかけてきた。
なんだか面白い人たちだなぁ。
「はい、山賊ゴブリン退治をしていたんですけど、見慣れないゴブリンがいたので聞きにきたんです」
「見慣れないゴブリン……?」
「はい」
「あっ、ごめんなさい。その話でしたね」
戦士の男性がこっちに来てしまったので、代わりに魔術師の男性が報酬を受け取っていた。
手続きを終えたケイスさんが、慌ててこっちにやってきた。
「えっと、これです」
ボクは手に入れた認識票をケイスさんに見せた。
すると――。
「なっ、なんてことですか!? ゴブリンアーミーが出現したんですね!? それにしてもよくお二人で倒せましたね。ゴブリンアーミーの最低の構成人数はリーダーのハイゴブリンを含めて五人です。それでもかなり強いのですが、指揮する人数が増えるとどんどん能力が強化されていくんですよ。ゴブリンアーミーは」
ゴブリンアーミーの性質を交えながら、ケイスさんは熱く語る。
どうやら相当に厄介な問題のようだ。
「おいおい、そのゴブリンアーミーってのはなんなんだ?」
「どうやら、ただごとではなさそうですね。話を聞かせてください」
戦士の男性と魔術師の男性がケイスさんに詰め寄った。
「落ち着いてください。落ち着いてもいられませんけど。ゴブリンアーミーはその名前の通り、ゴブリンの軍隊です。ゴブリンアーミーは、ほとんどが小隊指揮官のハイゴブリンとその他ゴブリンによって構成されていますが、構成人数、つまり指揮下にある構成員の人数によって、指揮官であるハイゴブリンの能力が上がっていきます。その恩恵は構成員の能力向上につながっています」
「つまり、人数が多ければ多いほど強くなるって? 三国志とかで聞く百人将とかそんな感じなのか?」
「えっと、『ゴリアテ』さんが何を言ってるのかわかりませんが、百人隊長という階級なら存在しています。その次は千人隊長ですが、まさにその通りでまるで人間の士気が上がるかのようにどんどん強くなっていくんです。そしてやがてはゴブリンの将軍である、ゴブリンジェネラルやゴブリンキング、英雄格であるゴブリンヒーローなどが誕生してしまうでしょう。スピカさん、どこで倒しましたか?」
「えっと、ここから少し森に入ったところです。メルヴェイユ側の街道までは行ってなかったかと」
「ありがとうございます。すぐに偵察を送ります。倒したゴブリンが全てであればいいのですが……」
ケイスさんの迫力にボクは思わず後ずさる。
どうやら厄介ごとが起きているようだ。
どうかジェネラルとか出ませんように。
「嬢ちゃん、もしかして不幸の星の元に生まれたりしていないか?」
『ゴリアテ』と呼ばれた戦士の男性がボクに失礼なことを聞いてきた。
なので――。
「いきなり失礼なことを言う人には話しかけないことにしています」
と、ボクはきっちり言うことにした。
「こんなかわいい子に失礼なことを聞くなんて、ゴリアテは最低ね」
「ゴリアテさん、それはないでしょう」
「きもっ」
「見損ないました」
ゴリアテさんはパーティーメンバーからも大ひんしゅくを買っていた。
口は災いの元ですよ?
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