第36話 スピカと修行~脱貧弱への第一歩、貧弱少女の悪あがき

「てええええい! 【炎符】」

 さっと取り出した符を使い、炎を呼び出し敵を焼く。

 身のこなしの練習がてらに敵と戦うボクは、森の中にいた。


「VRって現実の肉体の能力値も認識するんだっけ? もともと能力の高い人がやったら回避率とかすごく高そうだよね」

 そんなこと言っても、ボクは体操選手でもなければ軍人でもない。

 人より少し運動が苦手な子ってくらいだったはずだ。


「もう貧弱スピカなんて呼ばせない!」

 今のボクの身体は軽い。

 物理的にというより、能力が向上しているからだ。

 さすが天狐種といったところかな?


「隠された種族の一角がまさか天狐種だったなんて」

 このゲームには希少種族というものが存在している。

 その大半は進化後の種族が希少種族だったりするのだが、そこまで進化できる人はそう多くないようだ。


 ちなみに、コノハちゃんの『山猫族』も希少種族の1つらしいし、マーサさんのハーフトゥルーバンパイアもそういった希少種族らしい。

 そうは言いつつも、希少種族だから最強か? と言われると、実はそうでもなかったりする。

 

 なぜなら、希少種族というのは絶滅を危惧されている種族のことだ。

 通常時の能力は人より高い程度である。


 だが、特定条件下においては、非常に高い能力を獲得することが出来る。

 その特定条件というのは、種によって様々らしく、なってみないとわからないというのが本音だったりする。


 ただ、その特定条件が作られた場合の戦闘力は恐ろしいほどに高くなり、他の追随を許さないことだけは確かだ。


 その希少種族の1つ、ボクの種族でもある天狐種は、陽天狐と月天狐に分かれている。

 男性が陽天狐、女性が月天狐だ。

 陽天狐は太陽の出ている時間帯の能力値が30%以上アップするという破格の基本性能を持っている。

 半面、夜間時はその恩恵が一切失われるという。


 月天狐は夜間時の能力が20%向上するが、昼間の能力は10%程度の上昇のみに止まる。

 ただし、月の恩寵というスキルは満月時にはさらに能力向上する効果があるらしく、月天狐の神才と合わせると、40%以上のパワーアップが見込めるようだ。

 そうは言うものの、満月時という条件は月1回であり、ほとんどその恩恵にあずかることはない。


 使い勝手という点では、陽天狐の方が圧倒的に上なのである。


「結局希少種族だなんていっても、条件がそろわなければただちょっと能力が高い種族という程度なんだよね」

 そんな希少種族の使えない悲しい事情はさておき、希少種族ではないものの、恒常的に能力が高くまとまっている種族が存在する。

 

 ハイオークだ。

 彼らはとある事情により、まだ種族としては選べない。

 ただ、近接戦闘においては圧倒的な攻撃力と防御力を誇る動く要塞である。

 パーティーの要になりうる戦力だ。


「よっと【雷符】」

 襲ってくるコボルトを稲妻で貫き倒す。

 スキルは使い込めば使い込むほどに強さを増し、発動も早くなる。

 なので、日々の鍛錬は大事なのだ。


「道士スキルって結構使えるんだよね。これに攻撃陣を混ぜると、追い込み狩りも出来るんだから、たまんないよね」

 最近のボクは狩りに夢中だ。

 符術で追い込み、あらかじめ設置していた攻撃陣まで誘いこむ。

 そこで一気に殲滅。

 それがボクの今のブームだ。


「ふんふふ~ん。素材もざくざく、装備もそこそこ。鉄装備が手に入るのは嬉しいよね。街のみんなも大喜びだよ」

 コボルトやゴブリンの中には、鉄インゴットを持っているものや、錆びた鉄装備を装備しているものがいる。

 まぁ大半は革だったり木の棒だったりするんだけどね。

 こん棒とかそういうやつ。


「雑魚狩りっておいしいよね。あっ、採集ポイントみっけ」

 倒したコボルトから装備を回収していると、ほんのり光る草むらを発見する。


「ふんふん。ここは薬草が生えてるのか。そういえば錬金術に使う薬草が足りないって言ってたっけ」

 採集ポイントは、採集出来る素材がある場所を淡い光で示してくれるポイントのことだ。

 ある程度採ると、それ以上は採れない。

 同じ個所で採集するにはしばしの時が必要になるのだ。


「【氷符】【風符】【符術合成】【氷雪旋風刃】いっけ~!!」

 氷属性の符と風属性の符の合成業だ。

 簡単に言うと、ブリザードのようなやつである。

 雪ではなく氷の粒なんだけどね。


 ゴブリン5体を巻き込んだ氷雪を孕んだ旋風は、内部のゴブリンを氷で穴だらけにし風刃荒れ狂う風刃で切り刻んでしまう。

 あっという間に5体のゴブリンが光の粒となり消えていく。

 残ったのはゴブリンのドロップ品のみであった。


「この術で行くと、死体がドロップするということがないのか。剥ぎ取り可能な部分もまとめて切り刻んじゃうんだね」

 何となく思いついて合成してはみたものの、剥ぎ取りが出来ないのでは損の可能性が出てきてしまう。

 みんなといるときは封印かな?


「よし、それじゃあ次行ってみようか」

 ボクの一人修行はまだまだ始まったばかりだ。

 もうしばらく狩りしたら、一旦街に戻ろう。

 具体的に言うと、レベル15になるまでだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る