第35話 浴衣と昴と友達と

 女性陣は浴衣を選び、ボクは着せ替え人形になる。

 しばらくずっとこの繰り返しだったが、ボクは白地に紫とコバルトグリーンの色で描かれた紫陽花柄の浴衣を選んだ。

 ちょっとだけお高めだったのは内緒だ。


「へぇ~、なかなか見ない色合いだね。けど似合ってるじゃないか」

 ボクはとりあえず試着をし、それを賢人兄に見せる。

 賢人兄は嬉しそうに色んな角度から見ると、太鼓判を押してくれた。


「うん、良く似合う」

「ふふん、ありがと、賢人兄」

 ボクはお礼を言い、そのままミナ達の元へと向かう。


「じゃあ次は私の」

 そう言うと、ミナは白地にミントグリーンの鉄線柄の浴衣を着て賢人兄に見せに行く。


「昴といい、よくそんな色見つけて来たね。けど、爽やかな色合いがいいね。似合う」

 ミント系の色って思ったよりも浴衣に合うんだなぁと、ボクはしみじみそう思っていた。

 たしかに、ミナも可愛い。


「昴ちゃん、これ」

 このはちゃんがボクの元へと駆け寄り、着ていた浴衣を見せてくれる。

 このはちゃんが着ていた浴衣は、水色に菊の模様をあしらった浴衣だ。

 涼し気な感じがこのはちゃんによく似合う。


「うん、似合ってる似合ってる。かわいい」

「ありがとう」

 このはちゃんはやや照れるようにそう言うと、姉達の方を指さした。


「鈴お姉ちゃんと花蓮お姉ちゃんは、賢人お兄さんに見せるために来てる」

 このはちゃんの指さした先には、色々とアドバイスをしたり感想を伝える細かい男、賢人兄の姿があった。

 なんだか慣れた様子で、色々な浴衣を見比べている。


「賢人兄、お母さんみたい」

 実際家事も出来るし、ファッションセンスも悪くないのだから、もしかしたら母性的な何かが秘められているのかもしれない。


「お兄ちゃんの可能性」

 ミナはぽつりと呟くと、興味を失ったのかボクの袖を引っ張り出した。


「お姉ちゃん、このはちゃん。飲み物買いに行こう」

 もしかしたら、ミナなりに賢人兄達に気を遣ったのかもしれない。

 モテ男、賢人のその後はいかに……。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



「はぁ、飲み物が美味しい」

 ボク達は今、ショッピングセンターの休憩所付近のベンチに座っている。

 ゲームを長くやらない時間は久しぶりかもしれない。

 帰ったら帰ったで、採集や採掘とかやらなきゃいけないことも多いんだけどね。


「ゲームは楽しいけど、出かける時間も大事だと思う。昴ちゃんとミナちゃんと遊びに行けたのは嬉しい」

 隣に座るこのはちゃんがぽつりとそう呟いた。


「そうだね、私も一緒できてうれしいかも」

 ボクを挟んで反対側に座るミナが同じようにそう呟く。


「なんだかのんびりしてるねぇ」

 ボク達3人は、何をするでもなく、ただ一緒にぼんやりとしていた。


「それにしても、ミナちゃんのマイアはなんだかかっこいいよね」

 このはちゃんは、ゲーム内のマイアを思い出しているのだろう、そう言いながら少し楽しそうにしている。


「たしかに、黒銀色の髪の神官戦士。強そう」

 このはちゃんのイメージを引き継ぐように、ボクも想像してみる。


 ミナはきっとお母さんのようにすらっとした美人になるだろう。

 そう考えると、美人神官戦士が誕生することになるわけだが。


「とりあえず武器は槍かメイスかハンマーかバトルアックスで」

「いや、案外ナイフかもしれない」

「はぁ。とりあえず、その話は後。神聖魔術とかも使えるから結構強いんだよ。……見習いだけど」

 ミナはぷいっと顔を背けると、小さな声でそう言った。

 でも、女性神官戦士かぁ。

 絶対かっこいいよね。

 小さなミナに大きな武器を持たせるのもありかも。


「お姉ちゃん、変なこと考えてないで行くよ。もう終わったみたいだし。ご飯食べたら帰るんだからね」

「あっ、うん。いこ、このはちゃん」

「はい」

 ミナが先に立ち上がり、近くにやって来た賢人兄達の元へ行く。

 遅れてボク達も合流し、ご飯を食べに向かうことになった。

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